1. 無予告調査の法的根拠と質問検査権
① 質問検査権(税務職員の権限)
税務職員は、課税の適正な実現のために質問・検査・書類の提示・提出要求を行う権限(いわゆる質問検査権)を有します(国税通則法 第74条の2)。
② 事前通知が原則
実地の税務調査を行う場合、原則として調査日時・場所・目的・対象税目(等)を事前通知します(国税通則法 第74条の9)。
③ ただし「例外」― 事前通知を要しない場合
次のような場合には事前通知を要しない=無予告調査が認められます(国税通則法 第74条の10)。要件は概ね次の二つです。
- 違法または不当な行為を容易にし、課税標準や税額の正確な把握を困難にするおそれがある場合
- その他、国税調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合
(※要件の解釈・運用は国税庁通達にも整理があります。)
※ 細目(通知事項の詳細や省略可否の判断枠組み)は、国税通則法施行令や国税庁通達に定めがあります。
2. 無予告調査になりやすいパターン
- 現金取引が主体の業種(飲食・小売・美容等)で、現場確認が重要な場合
- 無申告や、過去調査で申告漏れ・不正経理の指摘がある場合
- 帳簿書類の不備・保存不良など、隠蔽・改ざん・廃棄の懸念がある場合
- 売上除外、レジ・現金在庫の実査など、その場の実態把握が必要な場合
(上記は傾向例であり、特定の業種に限定されるものではありません。)
3. 現場での「正しい初動」チェックリスト
来訪直後(まず落ち着いて)
- 身分証明書の提示を求め、所属・氏名と来訪目的を確認
- 調査対象税目・期間・調査方法の説明を受ける(メモ推奨)
- 無予告の理由(法74条の10該当性)について説明を求める
提出物・閲覧対応
- 準備が整っていない場合、即時提出は保留し、後日の提示・提出を申し出る
- 現場確認(レジ/在庫/金庫等)は、範囲と記録方法を確認した上で対応
専門家への連絡
- 顧問税理士へ直ちに連絡し、可能なら立会いを要請
- 連絡先不明時に備え、日頃から緊急連絡体制を整備
ポイント:無予告調査は法律で認められた手続ですが、納税者にも説明を求める権利や、準備のために提出期限の調整を相談する余地があります。強制力の有無や範囲は場面ごとに異なるため、必ず専門家にご相談ください。
4. 任意調査と強制調査(査察)の違い
任意調査(多くの税務調査はこちら)
- 根拠:国税通則法 第74条の2〜(質問検査権)
- 事前通知:原則あり(第74条の9)、例外として無予告(第74条の10)
- 同意に基づく運営:説明・協力要請を基本とする
強制調査(査察)
- 根拠:国税犯則取締法(裁判所の令状に基づく強制手続)
- 性質:抜き打ち実施が原則・差押等を含む
- 対象:重大・悪質な脱税嫌疑事案 など
※本ページは任意調査(無予告を含む)の実務対応が中心です。
5. よくあるご質問(FAQ)
- Q. 玄関先で帳簿を見せる義務はありますか?
- 場面により取扱いが異なります。まずは身分・目的・対象範囲の確認を行い、提出・閲覧方法や期限の調整を検討してください。専門家立会いの下で適切な範囲・手順を整えることを推奨します(質問検査権の運用は通達で詳細整理)。
- Q. 無予告の理由は開示してもらえますか?
- 実務上は第74条の10のどの要件に該当するのかを確認することが重要です。個別の情報は捜査・調査の適正確保の観点から限定される場合がありますが、来訪目的や対象範囲の説明は求められます。
- Q. 即日で全資料のコピー提出を求められたら?
- 準備状況次第では後日提出の調整が可能な場合があります。控除・黒塗り・限定開示などの実務配慮も含め、税理士にご相談ください。
6. 法令・公的資料(抜粋)
- 国税通則法 第74条の2(質問検査権)
- 国税通則法 第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)
- 国税通則法 第74条の10(事前通知不要の例外=無予告調査の根拠)
- 国税通則法施行令(通知事項・運用の細目)
- 国税庁「税務調査手続に関する通達」該当箇所(74条の9〜11関係)
7. まとめ ― まず確認・記録・連絡
- 身分証・来訪目的・対象範囲の確認(無予告の理由も確認)
- 当日の対応範囲を明確化(即時提出は慎重に。後日提出の調整可否を検討)
- 顧問税理士へ即時連絡(可能なら立会い)









