2026年施行「改正下請法」のポイントを税理士が徹底解説 | 澤田匡央税理士事務所
2025年5月16日、第217回通常国会において「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立しました。この改正により、法律の名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法)」へと変更され、施行日は2026年1月1日と定められています。
本改正は、昨今のコスト上昇や物流問題、取引実態の変化に対応し、中小企業が適正な対価を得られる環境を整備する重要な法改正です。当事務所では、企業経営者の方々が改正内容を正しく理解し、コンプライアンスを確立できるよう、ポイントをわかりやすく解説いたします。
改正の背景:物価高騰・人手不足・物流2024年問題により、価格転嫁が進まず、立場の弱い事業者が不利益を被るケースが増加。法改正により、公正な取引環境を強制的に整備。
1. 新たに追加された「禁止行為」
(1) 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(価格据え置き対策)
原材料費やエネルギーコストの上昇が続く中、委託事業者が代金交渉に応じない、あるいは必要な情報提供を怠ることで一方的に代金を据え置く行為が問題視されてきました。
- 禁止される行為:協議に応じない、説明・情報提供をしない、一方的な代金決定
- 実務上のポイント:発注時に「コスト上昇分を考慮した協議」を文書で記録し、双方合意の証拠を残すことが重要
(2) 手形払い等の禁止(現金決済の原則化)
支払手段として手形の使用を全面的に禁止。その他の支払手段(電子記録債権、ファクタリング等)についても、支払期日までに代金相当額を確実に得られない手段は禁止されます。
- 対象外:銀行振込、現金、即時決済可能な電子マネー等
- 実務対応:支払条件見直し、資金繰り計画の再構築、早期割引制度の導入検討
税理士からのアドバイス:手形廃止により資金繰りが悪化する企業は、運転資金の借入枠拡大や補助金活用を検討。支払サイト60日以内ルールの遵守も必須です。
2. 新たに追加された「規制対象」
(1) 「特定運送委託」の追加(物流2024年問題対応)
トラック運転手の時間外労働規制強化(2024年問題)により、荷待ち時間や附帯作業の無償化が深刻化。発荷主が運送事業者に物品運送を委託する取引が新たに対象に。
- 対象行為:荷役・荷待ちの無償化、運賃の一方的減額
- 影響範囲:製造業・卸売業など、物流を外部委託するほぼ全業種
(2) 従業員基準の追加(適用範囲の拡大)
従来の資本金基準に加え、従業員数基準が新設されました。
| 業種 |
従業員数基準 |
| 製造業等 |
300人以下 |
| 役務提供委託等 |
100人以下 |
→ 大企業でも従業員数が少ない事業者は「中小受託事業者」として保護対象に。
3. 用語の見直し(実態に即した法運用)
- 下請事業者 → 中小受託事業者
- 親事業者 → 委託事業者
- 下請代金支払遅延等防止法 → 中小受託取引適正化法
単なる名称変更ではなく、法の適用範囲や意図を明確化し、運送・役務提供など多様な取引に対応。
4. 執行体制の強化
公正取引委員会・中小企業庁に加え、事業所管省庁が指導・助言に参加。相互情報提供の仕組みも新設され、違反行為への対応が迅速化されます。
附帯決議(11項目)により、「価格転嫁のさらなる推進」「独占禁止法との連携強化」が政府に求められています。
企業が今すぐ取り組むべき対応
- 取引契約書の総点検:代金決定プロセス・支払条件の明記
- 社内ルール整備:交渉記録の保存、支払サイト60日以内遵守
- システム改修:手形廃止に伴う会計システム・ERPの見直し
- 教育研修の実施:購買・物流部門向けコンプライアンス研修
関連法改正情報
- 食品等流通合理化法:2025年6月改正。価格交渉拒否・一方的な値引き禁止
- 下請中小企業振興法 → 受託中小企業振興法
事務所通信を参照して作成。
中小企業庁のホームページを参考にして作成しました。
