近年、下請法の改正により、中小企業間の取引において労務費の適切な転嫁が強く求められるようになりました。特に、令和5年11月29日に内閣府から公表された「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を基に、事業者は発注者側・受注者側それぞれの立場で具体的な行動を取る必要があります。この記事では、税理士事務所の視点から、改正下請法のポイントを解説し、中小企業が実務的に取り組むべき事項を詳しくご紹介します。公正な取引環境を維持し、企業の持続的な成長を支えるために、ぜひ参考にしてください。
Q&A形式で理解する改正下請法
Q4: 「改正下請法」を踏まえ、中小企業では具体的にどのようなことに取り組めばよいのでしょうか?
A4: 「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月29日、内閣府)より、事業者が「取るべき行動/求められる行動」について見ていきましょう。企業の業態によっては、自社が「発注者側」「受注者側」のどちらにもなり得ます。ここでは、それぞれの立場に分けて、取り組むべき行動を詳しく解説します。税理士として、こうした取り組みはコンプライアンス遵守だけでなく、税務面でのリスク軽減にもつながる点をおすすめします。
1. 発注者としての行動
発注者側の場合に「取るべき行動」として、下記の6つが挙げられます。これらを実践することで、取引先との信頼関係を強化し、長期的なビジネスパートナーシップを築けます。また、税務調査時にも適切な価格転嫁の記録が有利に働きます。
行動1: 経営トップの関与
- 労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定する。
- 経営トップが同方針を書面等の形に残る方法で社内外に示す。例えば、社内通達や取引先向けのポリシー文書を作成し、公開する。
- その後の取り組み状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップがさらなる対応方針を示す。これにより、社内文化として価格転嫁の意識を定着させることができます。例: 毎月の経営会議で進捗をレビュー。
行動2: 発注者側からの定期的な協議の実施
- 受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設ける。
- 特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては転嫁について協議が必要であることに留意が必要。例えば、建設業や製造業では原材料費変動に加え、労務費の影響を定期的に確認しましょう。
行動3: 説明資料を求める場合は公表資料とすること
- 労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠があるものとして尊重する。
- 税理士のアドバイス: こうした資料は税務申告時の経費算定にも活用可能。非公開の内部資料を強要しないよう注意し、公正性を保ちましょう。
行動4: サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
- 労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させる。
- 例: 自社が中間業者である場合、下請けのさらに下の業者までの労務費を考慮し、全体のバランスを取る。これにより、業界全体の健全化を図れます。
行動5: 要請があれば協議のテーブルにつくこと
- 受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつく。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしない。
- 受注者からの申入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案する。税務面では、こうした協議記録を保存することで、将来的なトラブル回避に役立ちます。
行動6: 必要に応じて考え方を提案すること
- 受注者からの要請に対して、柔軟に考え方を提案し、合意形成を図る。例えば、段階的な価格調整やインセンティブの導入を検討。
2. 受注者としての行動
受注者側の場合に求められる行動」として、下記の4つが挙げられます。受注者として積極的に交渉することで、自社の利益を守り、税務上も適正な収益確保につながります。
行動1: 相談窓口の活用
- 労務費上昇分の価格転嫁の交渉の仕方について、国・地方公共団体の相談窓口、中小企業の支援機関(全国の商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨むこと。
- 税理士のヒント: 当事務所でもこうした相談をサポート。無料相談窓口を活用し、専門家にアドバイスを求めましょう。
行動2: 根拠とする資料を準備して価格交渉に臨む
- 発注者との価格交渉において使用する労務費の上昇傾向を示す根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いること。
- 例: 厚生労働省のデータを利用し、具体的な数値を提示。これにより、説得力が増します。
行動3: 値上げ要請のタイミングを見極める
- 労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うこと。
- 実務例: 年度末や契約更新時期を狙い、事前準備を徹底。
行動4: 発注者からの価格提示を待たずに自ら希望する価格を提示する
- 発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示すること。発注者に提示する価格の設定においては、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。
- 税務的観点: サプライチェーン全体を考慮した価格設定は、移転価格税制の観点からも重要です。
双方に求められる行動
同指針には発注者側・受注者側の双方が「取るべき行動/求められる行動」として、「定期的にコミュニケーションを取ること」「価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者の双方で保管すること」を挙げています。これらを徹底することで、トラブルを未然に防ぎ、税務申告の証憑としても活用できます。
ナルホド!改正下請法の遵守は、中小企業の持続可能性を高めます。当税理士事務所では、こうした法改正対応のコンサルティングを提供しています。お気軽にご相談ください。
この記事は、改正下請法の理解を深め、実務に活かすためのものです。詳細な相談は、当事務所までお問い合わせください。
事務所通信を参照して作成。
中小企業庁のホームページを参考にして作成しました。
