「誰も住まない実家を相続して困っている」「固定資産税や管理が負担」—こうした相談は依然多く寄せられます。相続後の対応を誤ると税負担や手続き上の不利益につながります。この記事では、手間・費用・手元に残る金額・税制の要点を整理し、実務的に使える判断基準を示します。
結論(要約):
条件次第で「3,000万円の特別控除(譲渡所得)」が最も有利になる場面があります。一方で、売却が難しい物件は買取業者や国庫帰属制度の活用、寄付・共有持分の処分など複数の選択肢を検討すべきです。制度ごとの要件は厳密ですので、まずは概況確認→専門家(税理士・不動産業者)への相談を推奨します。
相続した実家を手放す全9つの方法(比較表・簡易版)
| 順位 |
方法 |
手元に残るお金(目安) |
手間 |
期間の目安 |
おすすめ度 |
| 1 |
被相続人居住用家屋の特例(3,000万円控除)で売却 |
◎ 譲渡所得税が大幅軽減〜ゼロ(要件次第) |
★★☆☆☆(書類・確認が必要) |
3〜12ヶ月 |
★★★★★ |
| 2 |
空き家買取専門業者に即売却(買取) |
○ 売却額は割安だが現金化が早い |
★☆☆☆☆ |
最短数日〜数週間(業者により差あり) |
★★★★☆ |
| 3 |
隣地・親族に格安売却(私的譲渡) |
△ ほぼ手元ゼロの場合も |
★★☆☆☆ |
1〜6ヶ月 |
★★★☆☆ |
| 4 |
相続土地国庫帰属制度(手続・負担金あり) |
× 金銭が得られるわけではない(負担金の支払いが必要) |
★★★☆☆(審査・手続あり) |
数ヶ月〜1年以上(審査等) |
★★★☆☆(条件次第) |
| 5 |
自治体・NPO等へ譲渡・寄付(条件付き) |
× 基本的に対価はほぼなし |
★★★☆☆ |
数ヶ月〜 |
★★★☆☆ |
| 6〜9 |
一般媒介の売却・解体後売却・共有持分の売却など |
△〜×(物件次第) |
★★★〜★★★★★ |
長期化しやすい |
★〜★★★☆☆ |
第1位:被相続人居住用家屋の特例(3,000万円特別控除) — 要点と注意
ポイント:相続で取得した「被相続人が居住していた家屋及びその敷地」を一定の要件で譲渡した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(適用期限は現行で令和9年12月31日までの譲渡分までの取扱い等、法令改正状況を確認してください)。※相続人が3人以上で譲渡する場合など、控除額が2,000万円になる場合等の例外規定があります。
- 対象建物:原則として昭和56年5月31日以前に建築された家屋など、細かい要件があります(区分所有等は除外)。要件は国税庁のタックスアンサー参照を要します。
- 譲渡期限:原則「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日」までに譲渡(詳細は個別ケースで確認)。
- 耐震性・解体に関する拡充(令和5年度改正):譲渡後に買主が譲渡日の属する年の翌年2月15日までに取り壊す等の特約があれば適用対象になりうる拡張があります(令和6年1月1日以降の譲渡等の取扱い)。
→ 実例(イメージ): 物件が安価に売れても、適用要件を満たせば譲渡所得の税負担が大幅に軽減され、手元に残る金額が増えることがあります(個別事例により差が出ます)。
注意:この特例の適用には市区町村長の確認書等の書類提出や確定申告が必要です。要件に該当するかは必ず国税庁の説明(タックスアンサー)や税理士にて確認してください。
第2位:空き家買取専門業者に即売却(現金化が早い)
古家付き・訳あり物件を専門で買い取る事業者は全国に存在し、早期に現金化できるメリットがあります。業者によって条件や提示価格は大きく異なりますが、「査定〜現金決済が数日〜数週間」というケースもあり、早く手放したい場合は有力な選択肢です(事業者の公表情報や実績を必ず確認してください)。
知らないと損するポイント(制度・実務の“新常識”)
- 自治体による「特定空き家」指定や管理不全に伴う行政措置があり、指定後は固定資産税の住宅用地の特例が外れるなど税負担が大きくなる可能性があります。最悪の場合、更地相当(最大で概ね6倍相当)となるケースがありますので、指定前の対応検討が重要です。
- 解体費用は建物の構造・立地等で幅がありますが、一般的な木造住宅で“100〜180万円程度”が目安になることが多いです。解体して更地にしても買い手がすぐにつくわけではなく、地域や立地次第で利活用が難しいこともあります(国の実態調査でも同様の課題が指摘されています)。※“更地にしても売れない”は物件や地域により差が大きい点に注意。
- 不動産の「所有権放棄」は原則できませんが、2023年に導入された「相続土地国庫帰属制度」を利用することで、要件を満たした土地を国に帰属させる手続きが可能です。原則として宅地等は負担金が設定されており、面積や土地の種目により算定されます(宅地の場合は原則として20万円を基準とする取り扱い等)。制度利用には審査と手続きが必要です。
実務的な進め方(推奨フロー)
- 現状把握:所在地・面積・建物の築年・構造・登記状況・近隣状況を整理
- 税制チェック:3,000万円控除の適用可否・相続税の精算等を税理士に相談(要書類)。
- 売却案検討:一般媒介・買取業者見積り・寄付・国庫帰属等を比較
- 最終決定:費用(解体・申請手数料等)と手間、期日を踏まえ決定。必要書類は早めに準備
