社長が押さえておきたい「減価償却」の基本と実務ポイント
はじめに
簿記や会計に慣れていない経営者にとって、減価償却は「何のためにやるのか」「いつ費用にするのか」が分かりにくい項目です。本記事では、会計処理の基本、代表的な償却方法、耐用年数の考え方、そして巡回監査で押さえておきたい実務ポイントを分かりやすくまとめました。
減価償却とは何か — なぜ必要か
減価償却とは、長期間にわたって利用する資産(建物、機械、車両、ソフトウェアなど)の取得原価を、その資産が経済的に利用される期間にわたって配分して費用計上する会計処理です。これにより、収益と費用の対応(費用配分の原則)が達成され、毎期の業績をより適切に表せます。
中小会計要領での取り扱い(要点)
中小企業の会計基準(中小会計要領)では、固定資産の会計処理について次の要点が定められています。
- 固定資産は「有形固定資産(建物、機械等)」「無形固定資産(ソフトウェア等)」「投資その他の資産」に分類すること。
- 原則として取得原価で計上すること。
- 有形固定資産は定額法または定率法等により減価償却を行うこと。
- 無形固定資産は原則として定額法で償却すること。
- 耐用年数は法人税法に定める期間等を基に、適切な利用期間を設定すること。
- 災害等で著しい価値下落が判明した場合には評価損を計上すること。
(参考:中小企業の会計に関する基本要領 他)
代表的な償却方法:定額法と定率法
主に用いられる二つの方法について、特徴と計算のポイントを示します。
定額法(Straight-line method)
毎期同額を償却する方法です。計算式はシンプルで、資産の取得価額に定額法の償却率(耐用年数に応じた率)を掛けます。毎年の費用が安定するため、業績予測がしやすいのが利点です。
定率法(Declining balance method)
未償却残高に一定の率を掛けて償却する方法です。初年度ほど償却費が多く、年々減少します。税務上の取り扱いや償却保証額(ある年以降は毎年同額にする等)といった調整が必要になる場合があります。
取得価額:100万円、耐用年数:5年(定額法) → 年間償却費 = 1,000,000 ÷ 5 = 200,000円/年
定率法(仮に償却率40%)だと初年度は 1,000,000 × 0.40 = 400,000円、翌年以降は未償却残高に同率を掛けていきます。
耐用年数と「適切な利用期間」の決め方
耐用年数は税法(法人税法)に標準期間が示されていますが、実務では次を考慮して設定します。
- 実際の使用状況(使用頻度、稼働時間)
- 想定される技術的陳腐化の速さ(IT機器など)
- メンテナンスや修繕計画
- 法定耐用年数との整合性(税務申告と会計処理の差異を管理)
耐用年数を短く見積もると早く費用化され利益が圧縮されますが、過度に短くすると税務上・会計上の整合性に問題が生じることがあります。巡回監査では、耐用年数の根拠を説明できる書類(導入計画、稼働状況、メーカー仕様書等)を確認しましょう。
固定資産税・償却資産税との関係
会計上の償却と、地方自治体に納める固定資産税(および償却資産税)は別の制度です。税額は固定資産の評価額に基づいて算出され、所有者に課税されます。会計上は減価償却で費用配分しますが、固定資産税は資産の保有に対する税金として別に管理する必要があります。
災害や設備の著しい価値下落時の取り扱い
天災や事故により資産価値が大きく毀損した場合は、減損会計(評価損の計上)を検討します。証拠となる被害報告、復旧見込み、保険金の見込み額などを整理して、適切な会計処理を行うことが重要です。
押さえるべきポイント(チェックリスト)
実務的なチェックポイントをまとめます。
- 固定資産台帳の整備:取得日、取得価額、耐用年数、償却方法、残存価額が記載されているか。
- 耐用年数の根拠:税法基準だけでなく実際の使用状況に基づく判断が示されているか。
- 資産の分類が適正か(有形/無形/投資その他)
- 償却方法の選択理由(定額/定率)とその説明書類があるか。
- 災害や故障発生時の処理(減損・評価損)について手続きが決まっているか。
- 固定資産税・償却資産の申告状況(地方税の届出・申告書の控えがあるか)。
- リース資産やレンタルの会計処理が適切に行われているか。
よくある質問(簡潔回答)
- Q. 小規模の事業でパソコンを買ったらすぐ経費にできますか?
- A. 少額資産の特例や一括償却資産の制度を利用できる場合があります。金額や用途、会計方針により処理が変わるため、購入前にご相談ください。
- Q. 耐用年数を短くすると節税になりますか?
- A. 短くすると当期の費用は増えますが、税務上の整合性や将来の利益改善時に逆効果になることもあります。税務上の取扱いに注意が必要です。
- Q. 中古で買った機械の耐用年数は?
- A. 中古資産でも税法上の取り扱いがあり、取得時点の残存耐用年数等を基に算定します。購入時の帳簿やメーカー情報を保存してください。
当事務所からのワンポイントアドバイス
資産を購入する前に「会計上・税務上の処理」「固定資産税の届出」「耐用年数の見積もり」を担当税理士と一度相談することで、後からの手直しや税務上のトラブルを避けられます。特に設備投資が大きい場合は、キャッシュフローや税効果を踏まえたシミュレーションが有効です。
まとめ & 次のステップ
減価償却は「税金を減らすためのテクニック」ではなく、資産の利用と収益を紐づける会計の基本です。巡回監査の際は上記チェックリストで必ず確認し、不明点があれば早めにご相談ください。








