生前贈与は、相続税対策として有効な手段の一つです。特に、生命保険を活用した生前贈与は、相続税の非課税枠を利用することで、効率的に財産を次世代に移転する方法として注目されています。この記事では、生命保険を活用した生前贈与の長所と留意点を詳しく解説します。
被相続人自身が被保険者および保険料負担者である生命保険契約において、死亡保険金は相続税の課税対象となります。ただし、遺族の生活保障を考慮し、一定額までは非課税となる特例が設けられています。非課税枠は以下の計算式で求められます。
法定相続人の数は、相続放棄がなかったものとして計算されます。また、養子がいる場合、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人まで法定相続人に加算されます。
以下は、保険契約の構成に応じた課税関係の概要です。
| 被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 | かかる税金 | 特記事項 | 
|---|---|---|---|---|
| 本人 | 本人 | 配偶者 | 相続税 | 非課税枠あり | 
| 本人 | 本人 | 子 | 相続税 | 非課税枠あり | 
| 本人 | 本人 | 孫(養子でない) | 相続税 | 非課税枠なし 相続税額20%増 代襲相続人の場合, 非課税枠あり・20%増なし | 
| 本人 | 子 | 子 | 所得税 | 一時金:一時所得 年金:雑所得 | 
| 本人 | 子 | 孫 | 贈与税 | 110万円の基礎控除あり | 
生命保険を活用した生前贈与には、以下のようなメリットがあります。
死亡保険金の非課税枠は、受取人が相続人である場合にのみ適用されます。したがって、受取人を配偶者や子などの法定相続人に設定することが重要です。特に、配偶者には「法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額まで非課税」という特例があるため、死亡保険金の受取人を子に設定することで、二次相続(配偶者の相続)時の税負担を軽減する戦略が有効です。
一方、養子でない孫を受取人に指定する場合、非課税枠は代襲相続人に適用されますが、相続税額が20%増となる点に注意が必要です。養子縁組した孫も同様に20%増の対象となります。
財産総額が大きく、相続税の最高税率(55%)が適用される場合、非課税枠を超える死亡保険金には多額の税金がかかります。例えば、非課税枠を超える保険金が1億円の場合、5,500万円の相続税が発生します。このようなケースでは、以下のような方法が有効です。
子を保険料負担者とする契約:子が保険料負担者(契約者)となり、親を被保険者とする終身保険を契約します。保険金は相続財産とみなされず、一時所得として課税されます。一時所得の場合、保険金額から支払保険料を差し引き、50万円の特別控除後の金額の1/2に所得税・住民税(最高27.5%)が課されます。これにより、相続税よりも大幅に低い税率で資金を受け取ることが可能です。
さらに、親から子へ保険料相当額を毎年贈与することで、親の財産を減らしつつ、子の手取り額を増やすことができます。この場合、贈与税の110万円の基礎控除を活用することで、税負担をさらに軽減できます。
生命保険を活用した生前贈与を成功させるには、以下の点に留意が必要です。
生命保険を活用した生前贈与は、相続税の非課税枠を利用しつつ、資金の効率的な移転を可能にする優れた方法です。特に、子を受取人とした終身保険契約や、子を保険料負担者とする戦略は、相続税負担を軽減し、二次相続のリスクにも備えられます。ただし、受取人の選定や税率の試算、保険種類の選択には慎重な検討が必要です。専門家のアドバイスを受けながら、個々の状況に応じた最適なプランを構築しましょう。
※本記事は2025年10月時点の税制に基づいています。税制は変更される可能性があるため、最新の情報をご確認ください。