2025年9月号 – 財務の健全性を高め、経営の自由度を広げるためのガイド
貸借対照表(B/S)の「純資産の部」は、会社の健全性や安定性を測る重要な指標です。普段の経営ではあまり注目されないかもしれませんが、定期的に確認することで、会社の財務状況を深く理解し、将来の成長に向けた戦略を立てることができます。この「純資産の部」は、創業から現在に至るまでの「会社のあゆみ」を数字で表した、いわば「年輪」のようなものです。
「純資産の部」の主要な構成要素は「資本金」と「利益剰余金」です。これらが積み重なったものが「自己資本」です。自己資本は、返済義務のある「負債の部」(借入金などの他人資本)とは異なり、返済の必要がない資金です。そのため、自己資本が多いほど、会社の財務体質は強固になり、経営の自由度が高まります。
「資本金」は、会社設立時に株主が出資した金銭や現物で構成される、会社の資産の基盤です。資本金の管理には、株主名簿の整備が欠かせません。株主名簿は、増資や減資、自社株式の贈与・譲渡などで変動があった場合に更新が必要です。この名簿は、法人税の確定申告書に添付する「同族会社等の判定に関する明細書」に記載されるため、決算前に確認する習慣を身につけましょう。
特に長年経営を続けている会社では、かつての発起人が「名義株」として株主名簿に残っている場合があります。このような場合は、名義の経緯を確認し、本来の出資者に株式を移転するなどの対応が必要です。適切な管理が、透明性の高い経営につながります。
「利益剰余金」は、創業から現在までの税引後の当期利益の累計額で、会社の利益を稼ぎ出す力を示します。例えば、創業20年で利益剰余金が6,000万円の場合、平均年間利益は300万円となります。今期の利益が200万円だった場合、平均を下回る結果となり、経営の振り返りに役立ちます。
しかし、赤字が続くと利益剰余金はマイナスに転じ、資本金を上回るマイナスになると「債務超過」に陥ります。債務超過は資金調達を困難にし、経営の継続性を脅かします。利益剰余金を積み上げるためには、毎期の黒字決算が不可欠です。
「自己資本比率」は、総資本に対する自己資本の割合を示し、財務の健全性と経営の自由度を測る重要な指標です。自己資本比率が高いほど、借入金(他人資本)に頼らずに事業を運営でき、景気変動や金利上昇、災害などの予期せぬリスクにも対応しやすくなります。また、借入金の返済に追われることなく、利益を設備投資や新規事業に活用できるため、経営の選択肢が広がります。
中小企業が自己資本比率を高めるためには、黒字決算を実現し、税金を納めた上で利益剰余金を積み上げることが基本です。特に長期間経営を続けている企業では、不動産や有価証券の含み益に頼るケースも見られますが、こうした「含み益頼み」の経営は、資産売却がなければ借入金の返済が難しくなるリスクがあります。
含み益に依存せず、早いうちから利益を生み出す体質にシフトすることが重要です。具体的には、以下の取り組みが効果的です:
自己資本は、会社の安定性と成長可能性を支える基盤です。貸借対照表の「純資産の部」を定期的に確認し、資本金と利益剰余金の状況を把握することで、財務の健全性を維持し、経営の自由度を高めることができます。黒字経営を継続し、自己資本比率を高める努力を続けることで、社長の「やりたいこと」を実現するチャンスが広がります。
当事務所では、貴社の財務状況を分析し、自己資本比率の向上に向けた具体的なアドバイスを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。