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2025年12月23日 企業防衛おやくだち

不測の事態に備える ~企業防衛のための保険活用と公的制度~



不測の事態に備える ~企業防衛のための保険活用と公的制度~ | 税理士事務所 例


中小企業や個人事業主の経営は、多くの場合「社長の健康」と「社長個人の信用力」に大きく依存しています。
そのため、突然の病気・事故・死亡などの不測の事態が起きると、売上の減少や資金繰りの悪化を通じて、
事業そのものが揺らいでしまうリスクがあります。

中小企業庁の「事業承継ガイドライン」等でも、経営者の高齢化・健康不安は
事業継続上の大きな課題として指摘されています。
こうしたリスクに備える有効な手段が「企業防衛のための生命保険」「公的な共済制度」です。
当事務所では、特定の商品に偏らず、税務・財務の観点から「会社を守るための適正な備え」についてアドバイスを行っています。

1.事例:社長の突然の病気で会社が危機に陥るケース

例えば、創業25年の製造業を営む社長Aさん(60歳)が、ある日突然、脳梗塞で倒れ、
長期入院・リハビリが必要になったとします。
主要な取引先との交渉や銀行対応、資金繰りはすべて社長が担っていたため、以下のような事態が発生しました。

  • 社長不在により新規受注がストップし、売上が30%ダウン
  • 売上が減っても、毎月の家賃・人件費・借入金返済などの固定費は変わらず発生
  • メインバンクから「社長の復帰見込み」を問われ、融資条件の変更を打診される
  • 不安を感じた仕入先から、支払サイトの短縮(現金決済など)を求められる

これらは決して珍しい話ではありません。十分な内部留保(現預金)がなければ、
黒字経営であっても、わずか数か月で資金ショート(倒産)に直結してしまうリスクがあります。

※上記は一般的なリスク事例をイメージ化したものです。

2.中小企業が備えるべき主な「経営者リスク」

経営者に万一のことがあったとき、会社が直面するリスクは大きく4つに分類されます。

  • 死亡・高度障害リスク:社長の死亡により、売上減少、借入金の一括返済要請、相続発生による株式分散などが同時に起こるリスク。
  • 就業不能(長期療養)リスク:がん・脳卒中・心筋梗塞などの三大疾病やケガで長期間現場を離れ、指揮命令ができなくなるリスク。
  • 退職・事業承継リスク:勇退時の退職金原資不足や、後継者への自社株移転資金(買取資金・納税資金)が不足するリスク。
  • 連鎖倒産リスク:主要な取引先の倒産により、多額の売掛金が回収不能となり、自社の資金繰りが急速に悪化するリスク。
自社への問いかけ
「もし明日から1年間、社長が全く出社できなくなったら、会社の資金は持ちますか?」
この視点で、現在の現預金残高と毎月の固定費、借入返済額を一度整理してみることが重要です。

3.企業防衛のための生命保険(民間保険)の役割

多くの生命保険会社(大同生命など)や法人会・商工会議所では、
中小企業の経営特性に合わせた「企業防衛」のための保険商品を用意しています。
個人の保険とは異なり、あくまで「法人の財務を守る」ことが目的です。

(1)借入金返済と運転資金の確保(定期保険など)

経営者が死亡または高度障害状態になった際に保険金を受け取り、以下の資金に充当します。

  • 借入金の返済:金融機関からの借入金を完済し、残された遺族や後継者に「無借金の会社」を引き継ぐ(借入金対策)。
  • 緊急予備資金:売上が低下しても従業員の給与や家賃を払い続けるための、当面の運転資金(運転資金対策)。

一般的に、これらの必要額を算出したものを「標準保障額」と呼び、
「借入金残高 + 運転資金(月商の6ヶ月分~1年分)」などが目安とされます。

(2)就業不能時の収入補填(就業不能保険など)

「死なないリスク」への備えです。社長が働けない期間、
会社の売上減少をカバーするための毎月の給付金や、
社長自身の治療費・生活費を会社経費ではなく保険金で賄う仕組みを作ります。

(3)勇退退職金の積立(長期定期保険・逓増定期保険など)

将来の社長の退職金を計画的に準備するために活用されます。
ただし、近年の税制改正(2019年の法人税基本通達改正など)により、
「節税(全額損金)」を主目的とした保険加入のメリットは限定的になっています。
現在は税務メリットよりも、「確実にキャッシュを用意する(財務強化)」という視点が重要視されています。

4.公的制度との賢い組み合わせ

民間の保険だけでなく、国(中小企業基盤整備機構など)が用意している公的なセーフティネットを組み合わせることで、
コストを抑えながら強固な防御壁を作ることができます。

(1)経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

取引先が倒産した際、積み立てた掛金の10倍(上限8,000万円)まで無担保・無保証人で借入れができる制度です。
掛金は全額損金(経費)に算入できるため、利益が出ている時の節税と資金積立を兼ねて利用する企業が多いですが、
近年の税制改正に注意が必要です。

【重要】令和6年度(2024年)税制改正による制限
2024年10月1日以降に共済を解約(任意解約)した場合、
「解約に日から2年間」は、再加入しても掛金を損金(経費)にすることができなくなりました。
これまでのように「解約と再加入を繰り返して利益調整する」といった使い方は制限されていますのでご注意ください。

(2)セーフティネット保証制度

中小企業庁が所管する制度で、取引先の倒産や災害、金融機関の破綻などにより
経営の安定に支障が生じている場合、信用保証協会の保証枠を「別枠」で利用できる仕組みです。
有事の際の資金調達手段として覚えておくべき制度です。

5.保険見直しのチェックポイント

「昔に入ったまま放置している」「言われるがままに加入した」という保険はありませんか?
税務・財務の視点から、以下のポイントを定期的にチェックしましょう。

  • 保障額は適正か?
    借入金の増減や売上規模の変化により、必要な保障額(標準保障額)は変化します。
  • 契約者・受取人は「法人」になっているか?
    会社の借入金返済に充てる目的であれば、受取人は「法人」である必要があります。
  • 経理処理は正しいか?
    保険の種類や契約時期、最高解約返戻率によって、「全額損金」「1/2損金」「資産計上」などの処理が異なります。誤った処理は税務調査での指摘事項になります。
  • 解約のタイミング(出口戦略)はあるか?
    積立型の保険の場合、いつ解約して、その資金を何(退職金?設備投資?)に充てるかの計画が必要です。
当事務所にご相談ください

・自社の「適正な保障額」を試算してほしい
・現在加入している保険の内容一覧(証券診断)を作ってほしい
・倒産防止共済や公的制度の活用を含め、資金繰りを相談したい
・事業承継を見据えた退職金準備の計画を立てたい

特定の保険会社の商品に偏らず、
「企業防衛」と「財務体質の強化」の観点から、
中立的にアドバイスいたします。

※本記事は情報提供を目的としており、特定の商品を勧誘するものではありません。
※保険商品の詳細や契約内容については、各保険会社のパンフレットや約款をご確認ください。
※税務上の取扱いは、法改正により変更される場合があります。最新情報は顧問税理士等にご確認ください。



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