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なぜ中国がレアアース供給で「強い」のか — 実は“採掘”より“精錬(分離・精製)”がボトルネック


なぜ中国がレアアース供給で「強い」のか|レアアース/レアメタルの違いと精錬(分離・精製)のボトルネック

本記事は、レアアースの「偏在(どこにあるか)」ではなく「産業として成立させる難しさ(工程・コスト・環境対応)」に焦点を当てて解説します。
企業活動では、調達リスク・価格変動・供給制限が事業計画や原価に直結するため、背景理解が重要です。

1. そもそも「レアアース」と「レアメタル」の違い

レアメタル(希少金属)

日本の政策文脈では、レアメタルは「存在量が少ない」だけでなく、
技術的・経済的理由で抽出が難しい、かつ産業上重要な金属群として整理されます。
経済産業省資料でも、レアメタルは複数鉱種(例:プラチナ、リチウム、タングステン等)を含む概念として示されています。

レアアース(希土類)

レアアースは、レアメタルの一種であり、17種類の元素(希土類元素)の総称として整理されます。
性質が似ていて自然界では混ざって産出しやすく、用途(磁石・触媒・研磨材・蛍光体など)に応じて高純度に分ける必要があります。

ポイント

  • レアメタル:重要だが供給が不安定になりやすい金属群(概念が広い)
  • レアアース:その中の「17元素の総称」(より狭い)

2. 「実はレアアースは世界中どこにでもある」— ただし“経済的に採れる”のは別問題

レアアースは名称ほど「地球上に存在しない」わけではなく、地殻中に広く存在します。
ただし、経済的に採掘できる濃度(鉱床)としてまとまっている例は限られる、というのが重要な点です。

つまり「存在する」≠「安く大量に供給できる」です。採掘・選鉱・化学処理・環境対応まで含めて産業として成立するかが分岐点になります。

3. 中国が「独占」しているのは採掘だけでなく、むしろ精錬(分離・精製)工程

供給集中は採掘段階にもありますが、より大きいのは分離・精製(separation / refining)です。
国際エネルギー機関(IEA)の解説では、2024年時点で中国は採掘で約60%、
さらに分離・精製段階では約91%を占める、と整理されています。

レアアースの「採掘から最終製品として出荷」までの代表的プロセス

  1. 採掘(Mining):鉱石や粘土などを採る
  2. 選鉱(Beneficiation):不純物を減らし、濃縮物(コンセントレート)にする
  3. 化学処理(Cracking / Leaching):酸などで溶かし、元素を溶液側へ移す
  4. 分離(Separation):似た性質の17元素を、溶媒抽出などで“元素ごと”に分ける
  5. 精製・酸化物化(Refining / Oxides):高純度の酸化物(REO)へ
  6. 金属化・合金化(Metals / Alloys):磁石材料などへ
  7. 最終製品(例:高性能磁石など):モーター・発電機・電子部品に組み込まれる

※上記は一般的な工程整理です。特に「分離(separation)」は設備・ノウハウ・コストが重く、ここがサプライチェーン上の“首根っこ”になりやすい工程だと指摘されています。

4. なぜ精錬(分離・精製)が難しいのか:問題は「環境コスト」が大きい

(1)放射性元素(ウラン・トリウム等)を分ける必要がある

レアアース鉱物には、天然由来でウランやトリウムなどが含まれることがあり、
処理工程でそれらを分離・除去することで放射性物質を含む廃棄物(TENORM:Technically Enhanced Naturally Occurring Radioactive Materials)が生じ得ます。

(2)廃液・残渣(テーリング等)の処理が重い

分離・精製では化学薬品を用いることが多く、廃液処理・残渣管理・長期保管などの
環境対応コストが大きくなりやすいとされています。米EPAも、レアアース処理でウラン・トリウムの分離が関係し、TENORM廃棄物が生じる点を説明しています。

結論:精錬(分離・精製)は「技術」と同時に「環境対応」がセット。

規制が厳しい国・地域では、設備投資・許認可・廃棄物管理がコストを押し上げ、結果として国内に工程を作りにくくなります。
その分、すでに巨大な設備・人材・ノウハウを積み上げた国に工程が集まりやすくなります。

5. 「環境コストの差」が国際競争力(価格)に影響する

「中国が処理せずに垂れ流している」と一般化して断定するのは適切ではありません
しかし、研究・報告では、違法採掘や非正規の精錬・処理が存在し得ること、環境面の課題が長く指摘されてきたことは示されています。

現実的な言い方(企業向けの“リスク”として)

  • レアアース産業では、違法採掘・違法処理がデータの盲点になり得ることが指摘されており、
    正規の環境コストが価格に反映されにくい局面が起こり得ます。
  • 中国側も違法行為の取締りや産業統合、管理強化を進めてきた経緯があり、
    「規制・管理の強弱」と「供給・価格」が政策で動きやすい構造があります。

要点

「環境コストが大きい工程」ほど、規制・運用・取締りの差が国際競争力(価格)に影響しやすい。
これが“精錬工程の集中”を生む一因になります。

6. まとめ:なぜ中国が強いのか(本質は“精錬の集積”)

  • レアアースは地殻中に広くあるが、経済的に採れる鉱床は限られる
  • 中国の優位は採掘だけでなく、むしろ分離・精製(精錬)工程の圧倒的シェアが中核。
  • 精錬は放射性元素分離や廃棄物管理など、環境対応コストが重い
  • 違法操業や管理の不徹底が起こり得ることも指摘されており、環境コストが価格に反映されにくいリスクが供給構造に影響し得る。

税務・経営の観点での“実務ヒント”

レアアースそのものを直接扱わない業種でも、モーター・電子部品・自動車関連などを通じてサプライチェーン上の影響を受けます。
価格高騰・調達難が起きたときに備え、主要仕入先の分散、在庫方針、長期契約の条件(価格改定条項等)を「見える化」しておくことが、利益計画の精度向上に役立ちます
予期せぬ原価高騰や調達停止は、資金繰りや節税対策に直結するため、税理士はリスクを見据えた事業計画策定や在庫評価の適正化をサポートできます。

※本記事は公開情報に基づく一般的解説であり、個別案件の投資判断・法令判断を行うものではありません。



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