本記事は、レアアースの「偏在(どこにあるか)」ではなく「産業として成立させる難しさ(工程・コスト・環境対応)」に焦点を当てて解説します。
企業活動では、調達リスク・価格変動・供給制限が事業計画や原価に直結するため、背景理解が重要です。
日本の政策文脈では、レアメタルは「存在量が少ない」だけでなく、
技術的・経済的理由で抽出が難しい、かつ産業上重要な金属群として整理されます。
経済産業省資料でも、レアメタルは複数鉱種(例:プラチナ、リチウム、タングステン等)を含む概念として示されています。
レアアースは、レアメタルの一種であり、17種類の元素(希土類元素)の総称として整理されます。
性質が似ていて自然界では混ざって産出しやすく、用途(磁石・触媒・研磨材・蛍光体など)に応じて高純度に分ける必要があります。
ポイント
レアアースは名称ほど「地球上に存在しない」わけではなく、地殻中に広く存在します。
ただし、経済的に採掘できる濃度(鉱床)としてまとまっている例は限られる、というのが重要な点です。
つまり「存在する」≠「安く大量に供給できる」です。採掘・選鉱・化学処理・環境対応まで含めて産業として成立するかが分岐点になります。
供給集中は採掘段階にもありますが、より大きいのは分離・精製(separation / refining)です。
国際エネルギー機関(IEA)の解説では、2024年時点で中国は採掘で約60%、
さらに分離・精製段階では約91%を占める、と整理されています。
※上記は一般的な工程整理です。特に「分離(separation)」は設備・ノウハウ・コストが重く、ここがサプライチェーン上の“首根っこ”になりやすい工程だと指摘されています。
レアアース鉱物には、天然由来でウランやトリウムなどが含まれることがあり、
処理工程でそれらを分離・除去することで放射性物質を含む廃棄物(TENORM:Technically Enhanced Naturally Occurring Radioactive Materials)が生じ得ます。
分離・精製では化学薬品を用いることが多く、廃液処理・残渣管理・長期保管などの
環境対応コストが大きくなりやすいとされています。米EPAも、レアアース処理でウラン・トリウムの分離が関係し、TENORM廃棄物が生じる点を説明しています。
結論:精錬(分離・精製)は「技術」と同時に「環境対応」がセット。
規制が厳しい国・地域では、設備投資・許認可・廃棄物管理がコストを押し上げ、結果として国内に工程を作りにくくなります。
その分、すでに巨大な設備・人材・ノウハウを積み上げた国に工程が集まりやすくなります。
「中国が処理せずに垂れ流している」と一般化して断定するのは適切ではありません。
しかし、研究・報告では、違法採掘や非正規の精錬・処理が存在し得ること、環境面の課題が長く指摘されてきたことは示されています。
要点
「環境コストが大きい工程」ほど、規制・運用・取締りの差が国際競争力(価格)に影響しやすい。
これが“精錬工程の集中”を生む一因になります。
レアアースそのものを直接扱わない業種でも、モーター・電子部品・自動車関連などを通じてサプライチェーン上の影響を受けます。
価格高騰・調達難が起きたときに備え、主要仕入先の分散、在庫方針、長期契約の条件(価格改定条項等)を「見える化」しておくことが、利益計画の精度向上に役立ちます。
予期せぬ原価高騰や調達停止は、資金繰りや節税対策に直結するため、税理士はリスクを見据えた事業計画策定や在庫評価の適正化をサポートできます。