テレビで大相撲を見ていると、「力士って会社員なの?それともプロ野球選手のような個人事業主なの?」と疑問に思うことがあります。
結論からいうと、力士を単純に「会社員」「個人事業主」のどちらか一方だけで説明するのは難しく、収入の種類や活動実態に応じて税務上の取扱いを考える必要があります。
大相撲の力士は日本相撲協会に所属し、特に十両以上の「関取」になると協会から月額の給与などが支給されます。一方で、懸賞に関する金銭や広告・テレビ出演など、競技活動や個人の活動に関連した収入が生じることもあります。
今回は、力士の「サラリーマン的な顔」と「個人で稼ぐプロスポーツ選手としての顔」を、税金の視点から分かりやすく整理します。
1.そもそも力士は日本相撲協会に所属している
力士になるには、所属したい相撲部屋の師匠である年寄(親方)を通じて日本相撲協会へ必要書類を提出し、新弟子検査などを経て登録されます。
つまり、一般的なプロスポーツ選手が個別にチームやスポンサーなどと契約する形とは異なり、日本相撲協会と相撲部屋という独特の制度の中で活動するのが大相撲の力士です。
この点が、「力士は個人事業主なのか?」という疑問を少し複雑にしています。
2.十両以上の「関取」には給与がある
大相撲では、十両以上になると一般に「関取」と呼ばれ、日本相撲協会から月額の給与などが支給されます。
このような定期的な給与については、税務上も給与所得として扱われるものがあります。
給与所得とは?
国税庁は、使用人や役員等が受け取る俸給、給料、賃金、歳費、賞与などの性質を持つものを「給与所得」としています。
したがって、力士には、一般のプロスポーツ選手のイメージとは異なる「給与を受け取る」というサラリーマンに近い側面があります。
3.では、力士は「会社員」なの?
ここは注意が必要です。
「給与所得がある=一般企業の会社員とまったく同じ」という意味ではありません。
大相撲には、番付、相撲部屋、師弟関係、本場所、巡業など独自の制度があります。
そのため、力士と日本相撲協会との関係を、一般企業の会社員と会社との雇用関係にそのまま置き換えて説明するのは適切ではありません。
ポイント
- 税務上「給与所得」に該当する収入があること
- 労働法上「労働者」に当たるかどうか
- 契約上どのような関係にあるか
これらは、それぞれ別の問題として考える必要があります。
4.一方で「自分で稼ぐ」プロスポーツ選手としての顔もある
力士の収入は、協会から受け取る定期的な給与だけとは限りません。
例えば、競技成績や人気、個人としての活動などに関連して、次のような収入が生じることがあります。
- 懸賞に関連して受け取る金銭
- CM出演料
- テレビ・イベント等の出演料
- 広告・スポンサー等に関連する収入
- その他、競技活動に関連して得る収入
こうした収入は、内容や契約関係、活動の継続性・事業性などによって、事業所得や雑所得などとして検討する必要があります。
5.「懸賞金は必ず事業所得」と決めつけないことが大切
大相撲といえば、勝った力士が土俵上で受け取る懸賞を思い浮かべる方も多いでしょう。
ここで注意したいのは、「懸賞金だから必ず事業所得」と収入の名称だけで判断しないことです。
所得税では、その収入が誰から、どのような仕組みで支払われ、本人がどのような活動を継続して行っているかなど、実態を踏まえて所得区分を判断します。
これはCM出演料やテレビ出演料についても同じです。
税務では「名前」よりも収入の実質を見ることが重要です。
6.事業所得なら「収入-必要経費」で所得を計算
国税庁によると、事業所得は基本的に次のように計算します。
総収入金額 - 必要経費 = 事業所得の金額
例えば、競技活動に関連する収入が事業所得に該当する場合、その収入を得るために直接必要となった費用などは、要件を満たせば必要経費として計上できる可能性があります。
7.まわし・テーピング・トレーニング費用は全部経費になる?
力士の場合、競技のためにさまざまな支出があります。
例えば、
- 競技・稽古に必要な用具
- サポーターやテーピングなど
- トレーニング関連費用
- 仕事に必要な移動費
- 仕事に直接関係するその他の支出
などが考えられます。
ただし、「力士だから支出したものは何でも経費になる」というわけではありません。
必要経費になるかどうかは、その支出が収入を得るために直接必要だったか、家事上の支出と区分できるかなどによって判断します。
8.特に「食事代」は注意が必要
力士といえば体づくりのための食事が重要なので、「たくさん食べるための食費は全部必要経費になるのでは?」と思うかもしれません。
しかし、通常の食事は基本的に生活費としての性格を持っています。
そのため、単に「競技のためにたくさん食べる」という理由だけで、日常の食費をすべて事業の必要経費にできるとは限りません。
合宿・遠征など特定の業務との関係が明確な支出と、通常の生活費とは区別して考える必要があります。
経費判断で重要なこと
- □ 競技活動との直接的な関係があるか
- □ 私生活の支出と明確に区別できるか
- □ 領収書や明細などを保存しているか
- □ なぜ必要だったのか説明できるか
9.給与所得と事業所得等が両方あれば確定申告はどうなる?
仮に、ある力士に日本相撲協会からの給与所得があり、それとは別に事業所得や雑所得に該当する収入がある場合を考えてみましょう。
給与については給与所得として計算し、それ以外の所得については、それぞれの所得区分に従って計算します。
イメージ
協会からの給与
→ 給与所得
+
個別の活動による収入
→ 内容に応じて事業所得・雑所得など
↓
確定申告で必要な所得を合算して税額を計算
給与を受け取っているからといって、他の所得について確定申告が不要になるとは限りません。
10.プロ野球選手やプロゴルファーとは少し違う
一般にプロスポーツ選手というと、「個人事業主」というイメージが強いかもしれません。
実際、国税庁の源泉徴収に関する資料でも、プロ野球選手、プロサッカー選手、プロテニス選手、プロゴルファーなどに支払う一定の報酬・料金について、給与とは別の「報酬・料金」として源泉徴収する仕組みが示されています。
一方、大相撲の力士には協会から給与として扱われる収入があるなど、他のプロスポーツとは異なる特徴があります。
そのため、「プロスポーツ選手=全員まったく同じ税務処理」ではありません。
11.「サラリーマンと個人事業主のハイブリッド」と考えると分かりやすい
一般向けにイメージをつかむなら、力士は「サラリーマン的な部分と、個人で稼ぐプロスポーツ選手的な部分を併せ持つ」と考えると分かりやすいでしょう。
| 収入・活動 | 税務上の考え方 |
|---|---|
| 協会から支給される給与に該当するもの | 給与所得 |
| 個人の競技・出演等に関連する収入 | 内容により事業所得・雑所得等を検討 |
| 事業所得に対応する業務上の支出 | 要件を満たせば必要経費 |
| 通常の生活費 | 原則として必要経費にはならない |
ただし、「ハイブリッド」は法律上の正式な分類ではありません。
あくまで、大相撲の力士の特殊な収入構造を分かりやすく説明するための表現です。
12.幕下以下の力士はどうなる?
大相撲では、十両以上の関取と幕下以下の力士では待遇が異なります。
そのため、「力士なら全員、関取と同じ月額給与を受け取っている」わけではありません。
力士の税金を考える際には、番付、受け取っている金銭の種類、支払者、個人活動の有無などを個別に確認する必要があります。
この点も、一般的な会社員とは大きく違うところです。
13.力士の税金から分かる「所得区分」の大切さ
今回のテーマで最も重要なのは、「力士が会社員か個人事業主か」という肩書そのものではありません。
税務では、
誰から、何の理由で、どのようなお金を受け取ったのか
によって所得区分を考えることが重要です。
これは一般の経営者にも同じことが言えます。
同じ人が給与を受け取りながら副業をしていたり、役員報酬のほかに不動産収入があったり、講演料や原稿料を受け取ったりすることがあります。
「入金されたお金は全部同じ収入」と考えるのではなく、所得の種類ごとに税務上の取扱いを確認する必要があります。
税理士事務所からのワンポイント
「力士は個人事業主ですか?」という質問に対して、単純に「はい」「いいえ」と答えると、大相撲独特の仕組みを十分に説明できません。
分かりやすく言えば、給与所得を受け取るサラリーマン的な側面と、自らの競技・出演活動などから収入を得るプロスポーツ選手的な側面を持っていると考えるのがよいでしょう。
ただし、税務上は「ハイブリッド」という所得区分があるわけではありません。
実際の申告では、一つひとつの収入について、給与所得なのか、事業所得なのか、雑所得なのかを判断することになります。
税金では、職業名だけで判断せず、収入の内容と実態を見ることが大切です。
まとめ|力士は「給与を受け取る顔」と「個人で稼ぐ顔」を持つ
大相撲の力士について整理すると、次のようになります。
- 十両以上の関取には、日本相撲協会から給与として扱われる収入がある
- 個人の競技・出演等に関連する収入は、内容により事業所得・雑所得等を検討する
- 事業所得なら、収入を得るために必要な支出を必要経費として差し引く
- 日常の食費など、生活費まで何でも経費になるわけではない
- 税務上の所得区分と、労働法上の「労働者」かどうかは別の問題
したがって、「力士は個人事業主?」という疑問への答えは、
「単純な個人事業主ではない。給与所得を受け取る側面と、個人の活動による所得を得る側面を併せ持つ、非常に特殊なプロスポーツ選手」
と整理すると分かりやすいでしょう。
参考情報
※本記事は2026年9月時点の公表情報をもとに、一般の方にも分かりやすいよう大相撲の力士の収入と税務上の考え方を整理したものです。実際の所得区分や必要経費の範囲は、本人の契約内容、活動実態、支払者、収入の性質等によって異なります。また、「サラリーマンと個人事業主のハイブリッド」という表現は法律上の正式な分類ではなく、特徴を分かりやすく説明するための表現です。







