「税理士には、決算と申告をしてもらっている」
「税金の計算はきちんとしてもらっている」
「何かあれば相談には乗ってもらえる」
もちろん、正しい決算書を作り、適正な税務申告を行うことは税理士の大切な仕事です。
しかし、社長が本当に知りたい数字は、決算が終わった後の数字だけでしょうか。
「今期はいくら利益が出そうか」
「税金はいくら準備しておけばよいか」
「社員をもう1人採用して大丈夫か」
「この設備を買っても資金は回るか」
「銀行からいくら借りるべきか」
こうした経営判断に必要なのは、過去の数字だけではなく、現在の数字と未来の数字です。
シリーズ最終話では、これまで第1話から第9話まで取り上げてきた内容を振り返りながら、「数字を経営に活かすために、税理士とどう付き合うか」を考えます。
1.決算書は「会社の成績表」ですが、基本的には過去の数字です
決算書を見ると、1年間の売上、利益、資産、借入金、現預金などが分かります。
会社の経営状態を把握するうえで、決算書は非常に重要です。
しかし、決算書が完成する頃には、その事業年度はすでに終わっています。
決算書
=「この1年間、会社はどうだったか」を確認する数字
一方、社長が日々判断しなければならないのは、これからのことです。
決算書だけでは、「来月どうするか」「半年後どうなるか」までは分かりません。
2.社長が必要なのは「過去・現在・未来」の3つの数字
経営に数字を活かすには、3つの時間軸で考えると分かりやすくなります。
| 時間軸 | 見る数字 | 分かること |
|---|---|---|
| 過去 | 決算書 | 前期までの経営結果 |
| 現在 | 月次試算表 | 今、会社がどうなっているか |
| 未来 | 利益計画・納税予測・資金繰り | この先どうなりそうか |
この3つがつながると、数字は単なる「税金を計算するための資料」ではなく、社長が意思決定するための情報になります。
3.年に1回数字を見るだけでは、対策できる時間が短い
例えば、決算の直前になって、
「今年は思ったより利益が出ています」
「税金がかなり出そうです」
「現金を準備してください」
と言われても、できることは限られます。
もし数か月前から利益の着地が見えていれば、納税資金を準備したり、必要な設備投資を検討したり、役員報酬や人員計画を翌期に向けて考えたりする時間ができます。
大切なのは、税金を無理に減らすことではなく、早く数字を知って、選択肢を持つことです。
4.月次試算表は「作ること」が目的ではありません
毎月試算表を作っていても、社長が内容を見ていなければ、経営には十分活かせません。
さらに、試算表を渡されても、
「数字がたくさん並んでいて、どこを見ればよいか分からない」
という社長も少なくありません。
重要なのは、試算表を作ることではなく、
- □ 売上は計画どおりか
- □ 粗利益は確保できているか
- □ 営業利益はいくらか
- □ 現預金はいくらあるか
- □ 売掛金・在庫が増えすぎていないか
- □ 借入金はどう推移しているか
- □ 今期の利益はいくらになりそうか
といった、社長が経営判断に使える数字に読み替えることです。
5.「売上が増えた」だけでは経営判断はできない
第1話では、「売上は増えているのに、なぜお金が残らない?」というテーマを取り上げました。
売上が増えても、仕入、人件費、在庫、売掛金、借入返済、税金などによって、現金が増えるとは限りません。
社長が見るべきなのは売上だけではなく、
売上 → 粗利益 → 営業利益 → 税金 → 借入返済 → 現金
という一連の流れです。
この流れを毎月確認すると、「売上は伸びているのに、なぜ苦しいのか」が見えやすくなります。
6.「税金はいくら?」に決算直前まで答えられないのは不安
第2話では、納税予測について取り上げました。
社長にとって税金は、大きな資金支出です。
法人税等だけでなく、消費税、中間納付なども資金繰りに影響します。
月次の数字が適時に把握できていれば、
「このままなら利益は○○万円程度」
「税金は○○万円程度を見込んでおきましょう」
と、早い段階から概算を考えることができます。
納税は突然発生するものではありません。予測して準備するものです。
7.黒字でも現金が減る理由を説明してもらえていますか?
第3話では、「黒字なのに銀行口座のお金が減っていく」理由を取り上げました。
売掛金の増加、在庫の増加、設備投資、借入元金の返済などは、利益と現金の動きをずらします。
そのため、
「利益が500万円出ています」
だけでは、社長にとって十分な説明とは限りません。
「利益は出ていますが、売掛金が増え、借入返済もあるため、現金は200万円減っています」と説明されれば、会社の状態がずっと分かりやすくなります。
8.試算表は全部理解しなくてもいい。まず見る数字を決める
第4話では、試算表を見るときの最低限の数字として、粗利益・営業利益・現預金を取り上げました。
社長が会計の専門家になる必要はありません。
しかし、自社の重要な数字について、
- □ 今月はいくらだったか
- □ 前年より良いか悪いか
- □ 計画との差はいくらか
- □ なぜ差が出たのか
- □ 来月どうするのか
を確認する習慣は必要です。
数字は、分厚い資料よりも、経営に必要な数字を絞って継続的に見ることが大切です。
9.設備投資は「買えるか」ではなく「買って大丈夫か」
第5話では設備投資を取り上げました。
銀行口座に2,000万円あるから1,000万円の機械を買える、というだけでは判断できません。
確認したいのは、
- 投資によって利益がどれだけ増えるか
- 何年で回収できるか
- 借入か自己資金か
- 返済後も現金が残るか
- 売上が計画どおりでなくても耐えられるか
です。
設備投資こそ、損益と資金繰りの両方で判断する必要があります。
10.銀行が見る数字を、社長自身も説明できるようにする
第6話では、銀行融資と決算書について取り上げました。
金融機関は、売上や利益だけではなく、自己資本、現預金、借入金、返済能力、売掛金、在庫など、さまざまな数字を見ます。
そして重要なのは、社長自身が、
「なぜ今期は利益が下がったのか」
「来期はどう改善するのか」
「借りた資金を何に使うのか」
「どう返済していくのか」
を説明できることです。
月次で数字を確認している会社ほど、こうした説明もしやすくなります。
11.値上げも「感覚」ではなく数字で考える
第7話では値上げを取り上げました。
「5%値上げしたら、お客様が減るかもしれない」と考えるだけでは、判断が難しくなります。
原価率や粗利益を使えば、
「5%値上げした場合、販売数量が何%まで減っても現在の利益を維持できるか」
といったシミュレーションができます。
数字は未来を完全に当てるためのものではありません。判断材料を増やすためのものです。
12.採用も「忙しいから」だけで決めない
第8話では社員を1人採用する場合の人件費を考えました。
月給30万円なら年間360万円、というだけではありません。
賞与、会社負担の社会保険料、採用費、パソコン、ソフト、教育費などを含めると、会社の負担はさらに大きくなります。
採用によって必要となる年間人件費を把握し、
その人件費を吸収するために、粗利益はいくら増える必要があるのか
まで考えると、採用判断の精度が上がります。
13.そして第9話。「現金がいくらあるか」ではなく「3か月後にいくら残るか」
第9話では資金繰りを取り上げました。
今日の銀行残高が十分でも、翌月に税金、賞与、仕入代金、借入返済が重なれば、現金は大きく減ります。
日本政策金融公庫も、資金繰り計画を策定するための「資金繰り表」を提供しています。
社長が知りたいのは、
今日の預金残高
だけではなく
3か月後、6か月後の預金残高
です。
ここまで見えるようになると、融資や設備投資の相談も「お金がなくなってから」ではなく、早めに動けるようになります。
14.10話を通して伝えたかったことは一つです
このシリーズでは、売上、利益、税金、現金、融資、設備投資、値上げ、採用、資金繰りと、さまざまなテーマを取り上げてきました。
しかし、根本にある考え方は同じです。
「数字は、決算が終わってから確認するものではなく、これからの経営判断に使うもの」
です。
数字を見ても未来が100%分かるわけではありません。
それでも、数字を見ずに判断するより、現在地と複数のシナリオを把握したうえで判断する方が、経営の選択肢は増えます。
15.経営計画は「作って終わり」ではありません
中小企業庁の2025年版中小企業白書・小規模企業白書でも、経営計画について、単に策定するだけでなく、進捗管理、実績の評価、計画の見直しを行うことの重要性が示されています。
つまり、
計画を作る
↓
実績を確認する
↓
差が出た理由を考える
↓
次の行動を決める
↓
計画を見直す
という繰り返しが大切です。
これは月次の経営管理そのものです。
16.税理士との打合せで、こんな話ができていますか?
毎月または定期的な税理士との打合せで、次のような話ができているでしょうか。
- □ 今月までの利益はいくらか
- □ 前年・計画と比べてどうか
- □ 今期の利益はいくらになりそうか
- □ 税金はいくらになりそうか
- □ 3か月先の現金は足りるか
- □ 借入返済に無理はないか
- □ 設備投資をして大丈夫か
- □ 人を採用して大丈夫か
- □ 値上げすると利益はどう変わるか
- □ 銀行にどう説明するか
こうした話ができれば、税理士との打合せは「帳簿や税金の確認」だけではなく、経営を考える時間になります。
17.「数字を説明してくれる税理士」であること
社長が試算表を見て分からないときに、
「ここに書いてあります」
で終わるのではなく、
「粗利益率が前年より3ポイント下がっています」
「そのため売上は増えていますが、営業利益は減っています」
「この状態が続くと、決算では利益が○○万円程度になる見込みです」
と説明されれば、次に何を考えるべきかが分かります。
会計の専門用語をそのまま伝えるのではなく、社長が経営判断できる言葉に変換することも重要です。
18.税理士を変える・変えないの前に確認したいこと
「今の税理士は決算と申告だけ」という不満があったとしても、すぐに税理士変更が必要とは限りません。
まずは、
- □ 月次で数字を確認したい
- □ 利益予測をしてほしい
- □ 納税予測をしてほしい
- □ 資金繰りを一緒に確認したい
- □ 設備投資・採用の相談をしたい
- □ 銀行融資について相談したい
と、現在の税理士に具体的に相談してみる方法もあります。
そのうえで、求める支援内容と税理士事務所のサービスが合っているかを考えることが大切です。
19.「税金を計算する税理士」から「数字を一緒に見る税理士」へ
税務申告は当然重要です。
しかし、中小企業の社長にとって、税理士は会社の数字を継続的に見ることができる身近な専門家でもあります。
月次の数字を早く把握し、社長と一緒に確認することで、
- 利益の変化に早く気づく
- 納税資金を早めに準備する
- 資金不足を事前に予測する
- 設備投資を数字で検討する
- 採用の判断材料を作る
- 銀行への説明を準備する
といったことが可能になります。
税務申告のために数字を見るのではなく、会社を良くするために数字を見る。
これが、このシリーズでお伝えしたかった考え方です。
税理士事務所からのワンポイントアドバイス
社長がすべての会計数字を理解する必要はありません。
大切なのは、「自社の重要な数字を、毎月、同じ基準で確認すること」です。
そして、数字に変化があったときに、
「なぜ変わったのか」
「このままだとどうなるのか」
「今、何をすべきか」
を考えることです。
決算書は会社の過去を教えてくれます。
月次試算表は会社の現在地を教えてくれます。
利益計画と資金繰り表は、会社の未来を考える材料になります。
数字が見えると、経営の選択肢が見えてきます。
「決算が終わってから」ではなく、毎月の数字を経営に使いませんか?
澤田匡央税理士事務所では、決算・税務申告だけでなく、月次の数字を経営判断に活かしていただくことを重視しています。
「試算表をもらっても、どこを見ればよいか分からない」
「決算直前まで税金が分からない」
「黒字なのに現金が減る理由を知りたい」
「設備投資や採用を数字で判断したい」
「3か月先の資金繰りを見えるようにしたい」
「今の税理士との付き合い方を見直したい」
このようなお悩みがある経営者の方は、一度ご相談ください。
まとめ|社長、その数字ちゃんと見えていますか?
全10話にわたって、「社長、その数字ちゃんと見えていますか?」というテーマで、会社経営に必要な数字を見てきました。
最終的に社長が把握したいのは、難しい会計用語ではありません。
- □ 会社はいくら儲かっているのか
- □ なぜ現金が増えないのか
- □ 税金はいくらになるのか
- □ 設備を買って大丈夫か
- □ 借入金を返していけるか
- □ 値上げすると利益はどう変わるか
- □ 社員を採用して大丈夫か
- □ 3か月後に現金はいくら残るのか
こうした疑問に、数字を使って答えられる状態を作ることです。
決算と申告は、もちろん大切です。
しかし、それだけで終わらせるのはもったいありません。
会社の数字は、税務署へ提出するためだけにあるのではなく、社長が次の一手を決めるためにあります。
このシリーズが、自社の数字を改めて見るきっかけになれば幸いです。
参考情報
- 中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第2部第1章第1節 経営戦略」
- 中小企業庁「2025年版 小規模企業白書 第2部第1章第1節 小規模事業者の経営力の向上」
- 中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」
- 日本政策金融公庫「経営計画策定参考資料・資金繰り表」
※本記事は2026年9月時点の公表情報等をもとに、一般的な中小企業経営の考え方を分かりやすく整理したものです。必要な経営管理の方法、資金水準、融資判断、設備投資・採用等の判断は、業種、事業規模、財務状況、資金繰り等によって異なります。個別の判断については、自社の実際の数値に基づいてご検討ください。







