「今、銀行口座に3,000万円あるから大丈夫」
「まだ1,000万円残っているから、しばらくは安心」
このように、会社の安全性を預金残高だけで判断していないでしょうか。
確かに、現金・預金は会社経営にとって非常に重要です。
しかし、本当に大切なのは「今いくらあるか」ではなく、「これからいくら出ていくのか」「何か月先まで持つのか」です。
黒字の会社でも、売掛金の回収が遅れたり、税金・賞与・借入返済が重なったりすると、現金が急速に減ることがあります。
今回は、社長が知っておきたい「手元資金」と「資金繰り」の基本を、具体例を使って解説します。
1.「利益」と「現金」は同じではありません
まず押さえておきたいのは、利益が出ていることと、現金が増えていることは別だという点です。
例えば、商品を100万円で売っても、入金が2か月後なら、その100万円はすぐには銀行口座に入りません。
一方で、仕入代金、給与、家賃、社会保険料、借入金返済などは先に出ていきます。
そのため、
決算上は黒字
でも
銀行口座の残高は減っている
ということは普通に起こります。
資金繰りでは、損益計算書だけでなく、実際のお金の出入りを見る必要があります。
2.会社はいくら現金を持っていれば安心?
「会社には現預金がいくらあればよいですか?」という質問を受けることがあります。
残念ながら、すべての会社に共通する正解はありません。
必要な現金は、次のような条件で大きく変わります。
- 毎月の固定費
- 売上の入金サイト
- 仕入代金の支払サイト
- 借入金の返済額
- 税金・社会保険料の支払時期
- 賞与の有無
- 設備投資の予定
- 業種ごとの季節変動
したがって、単純に「売上の○か月分あれば大丈夫」と決めつけるのではなく、自社の支出構造から必要額を考えることが重要です。
3.まずは「毎月いくら出ていくか」を把握する
手元資金を考えるとき、最初に確認したいのが毎月の固定的な支出です。
主な固定的支出
- □ 給与
- □ 社会保険料
- □ 家賃
- □ リース料
- □ システム利用料
- □ 保険料
- □ 借入金返済
- □ 水道光熱費
- □ 通信費
例えば、毎月の固定的な支出が500万円なら、
1か月分 500万円
2か月分 1,000万円
3か月分 1,500万円
となります。
まずは、売上が入らなくても何か月耐えられるかという視点で見てみましょう。
4.「最低3か月分の固定費」が一つの目安になることも
一般的な考え方として、手元資金は最低でも数か月分の固定費を意識すると、資金繰りを考えやすくなります。
例えば、毎月の固定費が500万円なら、3か月分で1,500万円です。
ただし、これはあくまで一つの目安です。
売上の入金が遅い業種、季節変動が大きい会社、大きな設備投資を予定している会社などでは、より厚めの資金が必要になります。
反対に、現金商売で日々入金があり、在庫も少なく、固定費が低い会社では、必要な手元資金は比較的少なくて済むこともあります。
大切なのは、「3か月」という数字そのものより、自社の資金の動きに合っているかです。
5.月商だけで手元資金を考えると危険なことも
よく「月商の3か月分を現預金で持っておくと安心」と言われることがあります。
確かに一つの考え方ですが、月商だけでは十分ではありません。
例えば、月商1,000万円でも、仕入がほとんどなく利益率が高い会社と、月商1,000万円でも仕入が800万円かかる会社では、必要な現金は大きく違います。
したがって、
月商だけでなく、
固定費・仕入・返済・税金まで含めて考える
ことが重要です。
6.借入金返済は「経費」ではないが、現金は減る
資金繰りを考えるうえで、特に注意したいのが借入金返済です。
元金返済は、損益計算書上の経費にはなりません。
しかし、銀行口座からは毎月確実に現金が出ていきます。
例
毎月の借入返済 100万円
年間返済額 1,200万円
この1,200万円は、利益計算だけを見ていると見落としやすい支出です。
利益が出ていても、借入返済が大きければ現金は減るということを、社長は必ず意識しておきましょう。
7.税金の支払いは「年に数回まとめて来る」
資金繰りを悪化させやすいのが税金です。
法人税、消費税、地方税などは、毎月均等に支払うとは限りません。
決算後や中間申告の時期に、まとまった金額を支払うことがあります。
そのため、
「今月は現金が多い」
↓
翌月に税金800万円を支払う
↓
一気に預金残高が減る
ということもあります。
税金は、支払時期と金額を事前に見込んでおくことが重要です。
8.賞与・設備投資・保険料も忘れない
資金繰りは、毎月の通常支出だけでは判断できません。
年に数回しか発生しない大きな支払いも確認する必要があります。
- 賞与
- 決算賞与
- 設備投資
- 車両購入
- 年間保険料
- 固定資産税
- 税理士報酬・システム更新料などの年払い費用
これらを見落とすと、「普段は現金が十分あるのに、ある月だけ資金繰りが苦しくなる」ということが起こります。
9.資金繰りは「3か月先」を見る
社長が最低限見ておきたいのは、3か月先までの現金残高です。
例えば、次のように見ます。
| 月 | 月初残高 | 入金 | 支払 | 月末残高 |
|---|---|---|---|---|
| 10月 | 2,000万円 | 1,200万円 | 1,000万円 | 2,200万円 |
| 11月 | 2,200万円 | 1,100万円 | 1,500万円 | 1,800万円 |
| 12月 | 1,800万円 | 1,300万円 | 1,700万円 | 1,400万円 |
このように、将来の入金・支払を並べると、
「12月末には1,400万円まで減る」
と事前に分かります。
これが資金繰り表の基本です。
10.資金繰り表は難しく作る必要はない
資金繰り表というと、難しい管理表を想像するかもしれません。
しかし、最初はシンプルで構いません。
最低限入れる項目
- □ 月初の現金・預金残高
- □ 売上入金
- □ その他の入金
- □ 仕入・外注支払
- □ 給与・社会保険料
- □ 家賃など固定費
- □ 借入返済
- □ 税金
- □ 設備投資
- □ 月末残高
最初から完璧な資金繰り表を作るよりも、毎月更新することの方が重要です。
11.「月末残高」だけでなく「最低残高」を見る
月末に1,500万円残っていても、月の途中で500万円まで減ることがあります。
例えば、
10日 給与支払
15日 社会保険料
20日 仕入支払
25日 借入返済
30日 売掛金入金
という会社なら、月末残高だけを見ると安全そうでも、月中に資金が不足する可能性があります。
資金繰りが厳しい会社ほど、「月末残高」ではなく「月中の最低残高」も確認しましょう。
12.現金が減ってから銀行へ行くのでは遅い
資金繰りで最も避けたいのは、現金が底をつきそうになってから融資相談を始めることです。
銀行に相談するときは、資金に余裕があるうちの方が進めやすい傾向があります。
そのため、資金繰り表を見て、
「3か月後に現金が1,000万円を切りそう」
「税金支払い後に急減する」
「設備投資後の手元資金が薄い」
と分かった時点で、早めに対応を検討することが重要です。
13.「余った現金」ではなく「必要な現金」を残す
利益が出ると、設備投資、車両購入、役員報酬アップ、配当など、さまざまな使い道を考えたくなります。
しかし、先に確認したいのは、それを使った後に必要な現金が残るかです。
例えば、銀行口座に3,000万円ある会社が、2,000万円の設備投資を現金で行うと、残高は1,000万円になります。
毎月の固定支出が500万円なら、2か月分しかありません。
この場合、利益が出る投資であっても、資金繰りの面では慎重に検討する必要があります。
14.現金を持ちすぎるのは悪いこと?
「現金を持っていても利益を生まないから、もっと投資した方がよい」という考え方もあります。
確かに、必要以上の現金を長期間寝かせておくことは、経営効率の面では課題になることがあります。
しかし、中小企業にとって手元資金は、
- 売上減少への備え
- 急な修繕
- 得意先の倒産
- 仕入価格の上昇
- 設備トラブル
- 新規投資の機会
などに対応するための重要な「余裕」です。
大切なのは、多すぎるか少なすぎるかではなく、自社にとって必要な水準を決めておくことです。
15.社長が毎月見るべき資金繰りの数字
社長が毎月確認しておきたい数字は、難しいものではありません。
- □ 現在の現金・預金残高
- □ 1か月の固定的支出
- □ 3か月先の予想残高
- □ 今後の税金支払額
- □ 借入返済額
- □ 売掛金の入金予定
- □ 大きな設備投資・賞与予定
この7つを見るだけでも、資金繰りの不安はかなり減ります。
税理士事務所からのワンポイントアドバイス
資金繰りについて相談を受けると、「今、預金が○○万円あります。大丈夫でしょうか?」と聞かれることがあります。
しかし、本当に確認したいのは現在の残高だけではありません。
「3か月後にいくら残るのか」「税金や賞与を払った後にいくら残るのか」「売上が予定より下がっても何か月耐えられるのか」まで見ておく必要があります。
また、現金が減ってから対策するより、余裕があるうちに銀行借入や支払条件の見直しを検討する方が選択肢は広がります。
資金繰りは、困ってから見る数字ではなく、困らないために見る数字です。
3か月先の現金残高、見えていますか?
澤田匡央税理士事務所では、毎月の試算表を作るだけでなく、利益・税金・借入返済・資金繰りまで含めて経営判断に活用することを重視しています。
「いくら現金を残しておけばよいか分からない」
「税金を払った後の資金が不安」
「黒字なのに現金が減っている」
「設備投資をしても大丈夫か知りたい」
「3か月先の資金繰りを見えるようにしたい」
このようなお悩みがある経営者の方は、一度、自社の資金繰りを数字で整理してみましょう。
まとめ
会社にいくら現金があれば安心かは、会社によって違います。
ただし、考え方には共通点があります。
- 毎月の固定的支出を把握する
- 借入返済・税金・賞与なども含めて考える
- 最低でも3か月先の現金残高を予測する
- 月末残高だけでなく月中の最低残高も確認する
- 資金が減ってからではなく、余裕があるうちに対策する
資金繰りで重要なのは、「今いくらあるか」ではありません。
「この先、いつ、いくら入って、いつ、いくら出ていくのか」を見えるようにすることです。
社長が3か月先の現金残高を把握できるようになると、設備投資、採用、借入、納税といった経営判断もしやすくなります。
参考・補足
本記事の数値例は、資金繰りの考え方を分かりやすくするために単純化しています。
※必要な手元資金の水準は、業種、売上・仕入の入出金サイト、借入返済、税金、賞与、設備投資、季節変動などによって異なります。「固定費3か月分」などの表現は一般的な目安の一例であり、すべての会社に当てはまる基準ではありません。実際の資金繰り判断では、自社の入出金予定に基づいて個別に確認してください。







