仕入価格、人件費、電気代、物流費などが上がっているのに、「値上げしたらお客様が離れるのではないか」と不安になり、販売価格を据え置いていないでしょうか。
確かに、値上げには慎重さが必要です。
しかし、原価や経費だけが上がり、販売価格をそのままにしていると、売上は変わらなくても会社に残る利益は少しずつ減っていきます。
値上げを考えるときに大切なのは、「何%上げるか」だけではありません。
値上げによって1件・1個あたりの利益がいくら増えるのか。販売数量が多少減ったとしても利益を維持できるのか。
今回は、値上げを感覚ではなく数字で考えるための基本的な見方を、具体例を使って解説します。
1.「値上げ=売上が増える」だけではありません
値上げをすると、同じ数量を販売できれば売上は増えます。
しかし、経営上もっと重要なのは、売上ではなく利益がどれだけ増えるかです。
例えば、商品の販売価格を5%上げたからといって、利益も5%増えるとは限りません。
原価や固定費の状況によっては、販売価格を5%上げるだけで、利益が30%、50%と大きく増えることもあります。
反対に、原材料費なども同時に上がっている場合は、値上げしても利益がほとんど増えないケースもあります。
値上げを考えるときは、「売価」だけではなく「原価」と「利益」をセットで見ることが大切です。
2.まず見るべきは「1個売ったらいくら残るか」
値上げの効果を考えるとき、分かりやすいのが1個・1件あたりでいくら利益が残るかを見る方法です。
例:商品を1個1万円で販売している場合
販売価格 10,000円
材料費・仕入などの変動費 6,000円
1個あたり残る金額 4,000円
この4,000円から、家賃、社員給与、リース料などの固定費を支払い、残ったものが会社の利益になります。
つまり、値上げの効果を見るときは、販売価格そのものより「1個売ったときに固定費と利益へ回せる金額がいくら増えるか」を見ると分かりやすくなります。
3.5%値上げすると利益はどれくらい増える?
先ほどの商品を5%値上げし、10,000円から10,500円にしたとします。
ここでは分かりやすくするため、材料費などの変動費は1個6,000円のままとします。
値上げ前
販売価格 10,000円
変動費 6,000円
1個あたり残る金額 4,000円
5%値上げ後
販売価格 10,500円
変動費 6,000円
1個あたり残る金額 4,500円
販売価格は5%しか上がっていませんが、1個あたり残る金額は4,000円から4,500円へ増えています。
500円 ÷ 4,000円 = 12.5%増
「5%値上げ=利益も5%増」ではありません。
原価が変わらない前提なら、値上げした500円の大部分が、そのまま利益改善につながるためです。
4.会社全体で見ると、利益への影響はさらに大きい
現在の年間実績
売上高 1,000万円
変動費 600万円
固定費 300万円
利益 100万円
販売数量が変わらず、価格だけを5%上げることができたとします。
5%値上げ後
売上高 1,050万円
変動費 600万円
固定費 300万円
利益 150万円
売上は50万円、つまり5%増えただけです。しかし利益は100万円から150万円となり、50%増です。
このように、もともとの利益率が低い会社ほど、適切な値上げが利益に与える影響は大きくなることがあります。
5.「値上げしたらお客様が減る」が怖い理由
値上げに踏み切れない最大の理由は、「値上げしたらお客様が離れて売上が減るのではないか」という不安ではないでしょうか。
もちろん、値上げによって販売数量が減る可能性はあります。
しかし、ここでも感覚だけで考えるのではなく、「何%まで販売数量が減っても、今の利益を維持できるのか」を計算してみることが重要です。
6.5%値上げなら、販売数量が約11%減っても利益を維持できる例
値上げ前
販売価格 10,000円
変動費 6,000円
1個あたり残る金額 4,000円
1,000個販売すると、4,000円 × 1,000個 = 400万円が固定費と利益へ回る金額になります。
次に5%値上げして、販売価格を10,500円にすると、1個あたり残る金額は4,500円です。
400万円 ÷ 4,500円 = 約889個
つまり、この条件では1,000個から約889個まで減っても、値上げ前と同じ400万円を確保できます。
販売数量で見ると、約11%減少しても、利益水準を維持できる計算です。
「5%値上げしたら5%お客様が減ったら損」というわけではありません。
7.10%値上げならどうなる?
10%値上げ後
販売価格 11,000円
変動費 6,000円
1個あたり残る金額 5,000円
値上げ前と同じ400万円を確保するために必要な販売数量は、400万円 ÷ 5,000円 = 800個です。
この例では、販売数量が1,000個から800個、つまり20%減っても値上げ前と同じ水準を確保できます。
大切なのは、「値上げ率」と「許容できる販売数量の減少」をセットで計算してから判断することです。
8.値上げ率だけでなく「粗利益率」を確認する
商品やサービスによって、値上げの効果は異なります。特に確認したいのが粗利益率です。
粗利益率のイメージ
売上高 1,000万円
売上原価 700万円
売上総利益 300万円
300万円 ÷ 1,000万円 = 粗利益率30%
粗利益率が低い会社では、仕入価格が少し上がっただけでも利益への影響が大きくなります。
「売上は前年と同じだから大丈夫」ではなく、「粗利益率が前年より下がっていないか」を確認しましょう。
9.原価が上がった分だけ値上げすれば十分?
「仕入価格が5%上がったから、販売価格も5%上げればよい」と考えてしまうことがあります。
しかし、必ずしもそれで利益を維持できるとは限りません。
仕入だけでなく人件費、電気代、運賃、システム利用料なども上がっていれば、それらも含めて必要な値上げ幅を考える必要があります。
- 材料費・仕入価格
- 外注費
- 給与・賞与
- 社会保険料
- 電気・ガス・燃料費
- 物流費・運送費
- 家賃
- システム利用料
「原価の上昇分を転嫁する」だけでなく、「会社として必要な利益を確保できる価格はいくらか」を考えることが重要です。
10.全部の商品を一律に値上げする必要はない
値上げというと、「全商品を一律5%上げる」と考えがちですが、商品・サービスごとに利益率が違う場合は、一律値上げが最適とは限りません。
- 利益率が非常に低い商品
- 原材料費の上昇が大きい商品
- 手間がかかる割に料金が低いサービス
- 長期間価格を見直していない商品
- 競争力があり、価格以外の価値が高い商品
商品別・サービス別に「売上」ではなく「いくら利益を生んでいるか」を確認してみましょう。
11.「売れている商品」が「儲かっている商品」とは限らない
売上ランキング上位の商品が、必ずしも会社の利益に大きく貢献しているとは限りません。
例えば大量に売れていても、仕入価格が高く、値引きも多く、配送や作業の手間がかかれば、実際にはほとんど利益が残っていないことがあります。
- □ 商品別・サービス別の売上が分かる
- □ 商品別・サービス別の原価が分かる
- □ どの商品が利益を生んでいるか分かる
- □ 値引き後の実際の販売価格を把握している
- □ 手間や作業時間まで考慮できている
この状態にしておくと、値上げの優先順位を決めやすくなります。
12.「値上げできない」なら、数量・内容・コストを見直す
業界や契約内容によっては、すぐに値上げできない場合もあります。
その場合は、「値上げできないから仕方がない」で終わらせず、別の方法で利益を確保できないか考えます。
- 最低注文数量を設定する
- 送料無料の条件を見直す
- サービス内容を整理する
- オプション業務を別料金にする
- 値引き条件を見直す
- 仕入先や外注先を見直す
- 業務を効率化して作業時間を減らす
価格だけでなく、取引条件全体を見直すことも利益改善につながります。
13.値上げ前に3パターンを試算する
| ケース | 想定 | 確認すること |
|---|---|---|
| 順調ケース | 値上げ後も販売数量がほぼ変わらない | 利益がどこまで増えるか |
| 慎重ケース | 販売数量が5~10%減る | それでも利益が増えるか |
| 厳しいケース | 販売数量が10~20%減る | 値上げ前の利益を維持できるか |
「5%値上げしたら、販売数量が何%減るまでなら大丈夫か」という具体的な判断ができるようになります。
14.値上げ後は必ず「実績」を確認する
- □ 販売数量はどれくらい減ったか
- □ 売上高は増えたか、減ったか
- □ 粗利益額は増えたか
- □ 粗利益率は改善したか
- □ 営業利益は改善したか
- □ 想定以上に離れた顧客はいなかったか
事前に予測した数字と実績を比べることで、次の価格改定にも生かせます。
値上げは「決めること」より、「値上げ後の数字を検証すること」までが経営判断です。
15.消費税込み・税抜きの数字を混ぜない
値上げの試算をするときは、消費税込みと税抜きの金額を混ぜないように注意しましょう。
社内で収益性を分析するときは、税抜きなら税抜きで統一するなど、同じ基準で比較することが大切です。
実際にお客様へ提示する価格については、取引形態や表示方法に応じて税込・税抜表示を適切に確認しましょう。
税理士事務所からのワンポイントアドバイス
値上げの相談を受けると、「何%上げたらよいですか?」という質問をいただくことがあります。
しかし、本当に確認したいのは値上げ率だけではありません。
「現在1件あたりいくら利益が残っているのか」「5%上げたら利益はいくら増えるのか」「販売数量が何%減っても現在の利益を維持できるのか」まで計算すると、値上げの判断はかなりしやすくなります。
また、値上げを先送りして利益が減り続けると、社員の給与を上げる、設備投資をする、新しい人を採用するといった将来への投資も難しくなります。
会社を継続し、社員や取引先への支払いを守り、将来へ投資するためにも、適正な利益を確保することが必要です。
値上げする前に、利益がどう変わるか計算してみませんか?
澤田匡央税理士事務所では、毎月の試算表を税金の計算だけで終わらせず、売上、粗利益、固定費、営業利益、資金繰りなどを経営判断に活用することを重視しています。
「いくら値上げすればよいか分からない」
「値上げすると何%まで売上が減っても大丈夫か知りたい」
「原価が上がっているのに価格を変えられていない」
「商品ごとの利益率を確認したい」
「値上げ後の利益予測を作りたい」
このようなお悩みがある経営者の方は、価格を変更する前に一度数字を整理してみましょう。
まとめ
値上げを考えるときは、「お客様が離れそうで怖い」という感覚だけで判断せず、数字に置き換えて考えることが大切です。
- 1個・1件あたり、現在いくら利益が残っているか
- 値上げすると1個・1件あたりの利益がいくら増えるか
- 販売数量がどこまで減っても現在の利益を維持できるか
- 商品・サービスごとの粗利益率はどうなっているか
- 値上げ後の実績が予測どおりだったか
値上げ率は数%でも、利益に与える影響はそれ以上に大きくなることがあります。
「値上げすると売れなくなるかもしれない」だけでなく、「値上げしないと利益がどこまで減るのか」も同時に考える。
そのうえで、自社にとって必要な価格を数字で判断していきましょう。
参考・補足
本記事の数値例は、値上げと利益の関係を分かりやすくするため、販売価格・変動費・固定費などを単純化して計算しています。
※実際の値上げ判断では、商品・サービスごとの原価、販売数量、値引き、固定費、競合価格、契約条件、顧客への影響などを総合的に検討する必要があります。また、値上げによる販売数量の変化は商品・サービスや市場環境によって異なります。実際の価格改定前には、自社の実績数値を使って個別に試算してください。







