銀行は決算書のどこを見ている?融資を受けやすい会社の数字|社長、その数字ちゃんと見えていますか?⑥
「銀行に決算書を出したけれど、どこを見られているのだろう?」「黒字なら融資は受けやすい?」「売上が増えていれば銀行の評価も上がる?」――。銀行から融資を受けるとき、決算書は会社の状況を伝える重要な資料です。
しかし、銀行が見ているのは「売上がいくらあるか」「黒字か赤字か」だけではありません。
銀行にとって重要なのは、貸したお金を将来きちんと返してもらえるかどうかです。そのため、利益だけでなく、会社の財産や借入金、純資産、資金繰り、そして今後の事業の見通しなどを総合的に確認します。
今回は、銀行が決算書を見るときの代表的なポイントを、社長が押さえておきたい数字に絞って解説します。
1.銀行が知りたいのは「この会社は返済できるか」
融資をする銀行の立場から考えると、最も基本的なポイントはシンプルです。
「この会社に貸したお金は、きちんと返ってくるだろうか?」
その判断材料の一つが決算書です。
損益計算書からは会社がどれくらい利益を生み出しているのか、貸借対照表からは会社にどれくらい財産や借入金があり、財務的な体力がどの程度あるのかを確認できます。
中小企業の融資では、決算書の数字だけではなく、事業内容、成長性、経営者の説明、今後の計画なども重要です。
つまり、融資を受けやすい会社を目指すのであれば、「決算書を良く見せる」のではなく、「返済できる会社をつくる」ことが基本です。
2.まず確認したい「利益」― 本業で稼げていますか?
売上が1億円ある会社でも、ほとんど利益が残っていなければ、借入金を返済する余力は大きくありません。
逆に、売上規模はそれほど大きくなくても、毎年安定して利益を確保できている会社は、返済原資を生み出す力があると考えやすくなります。
| 数字 | 何が分かる? |
|---|---|
| 売上総利益(粗利益) | 商品・サービスからどれだけ利益を確保できているか |
| 営業利益 | 本業でどれだけ利益を出しているか |
| 経常利益 | 支払利息なども含め、通常の活動全体でどれだけ利益が出ているか |
| 当期純利益 | 税金なども反映した最終的な利益 |
特に社長には、営業利益が継続して出ているかを見ていただきたいところです。
一時的な資産売却益などで最終利益が黒字でも、本業が赤字のままであれば、翌年も同じ利益が出るとは限りません。
3.銀行は「今期だけ」ではなく「推移」を見る
決算書を見るときに大切なのは、1年分の数字だけで判断しないことです。
例:売上と営業利益の3期推移
| 3期前 | 2期前 | 今期 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,000万円 | 9,000万円 | 1億円 |
| 営業利益 | 300万円 | 600万円 | 1,000万円 |
この会社なら、「売上だけでなく利益も伸びている」と説明できます。
一方で、売上は増えているのに営業利益が毎年減っているのであれば、原価率の上昇、人件費の増加、値付けなどに問題がないか確認が必要です。
社長自身も、「今年はいくらだったか」だけではなく「3年間でどう動いたか」を見る習慣をつけましょう。
4.貸借対照表では「純資産」を確認
損益計算書が一定期間の経営成績を表すのに対し、貸借対照表は決算日時点の財政状態を表します。
その中で、社長にぜひ確認していただきたいのが「純資産」です。
毎年利益を出し、その利益を会社に蓄積していけば、基本的には純資産も厚くなっていきます。反対に赤字が続けば、過去に蓄積した利益を食いつぶし、純資産が減っていきます。
さらに、負債が資産を上回り、純資産がマイナスになった状態が「債務超過」です。
銀行との関係を考えるうえでも、純資産を積み上げ、会社の財務体質を強くしていくことは重要です。
5.「現預金がいくらあるか」も重要
利益が出ているからといって、会社に十分なお金があるとは限りません。
第3話でも説明したように、黒字でも売掛金や在庫が増えたり、設備投資をしたり、借入金を返済したりすれば、銀行口座のお金は減ります。
例えば、月々の支払いが1,000万円ある会社で、預金が300万円しかなければ、少し入金が遅れただけでも資金繰りが厳しくなる可能性があります。
「利益が出ているから大丈夫」ではなく、「今、会社にはいくら現金があるのか」を社長自身が把握しておきましょう。
6.借入金は「多い・少ない」だけでは判断できない
返済能力に対して過大な借入金がある状態は注意が必要ですが、借入金があること自体が悪いわけではありません。
例えば、設備投資によって生産能力を高める、店舗を増やす、人材を採用して事業を成長させる、といった目的で借入を活用することもあります。
借入を検討するときは、少なくとも次の点を整理しましょう。
- なぜ借りるのか
- いくら必要なのか
- その投資でどれくらい利益・キャッシュを生み出せるのか
- 毎月の返済を無理なく続けられるのか
見るべきなのは借入金の金額だけではなく、会社の利益やキャッシュフローに対して借入金が適正な水準かという点です。
7.銀行借入の返済は「経費」ではありません
ここは社長にぜひ知っておいていただきたいポイントです。
銀行へ毎月30万円を返済していても、30万円すべてが損益計算書の経費になるわけではありません。
借入金の元本返済は経費ではなく、貸借対照表の借入金が減る取引です。支払利息は費用になりますが、元本部分は利益計算には直接出てきません。
そのため、「決算書では利益が出ているのに、借入金を返済するとお金が残らない」ことがあります。
融資を考えるときは、利益だけではなく、利益から実際にどれくらい返済資金を生み出せるのかを見ることが重要です。
8.簡単な例で「返済力」を考える
例:年間返済額と返済原資を比べる
税引後利益 500万円
減価償却費 300万円
年間借入金返済額(元本) 600万円
500万円 + 300万円 = 800万円
非常に簡略化すると、税引後利益500万円に、現金支出を伴わない費用である減価償却費300万円を加えると800万円です。
年間返済額が600万円なら、単純計算では返済後に200万円の余力があります。
ただし、実際の資金繰りは、売掛金、在庫、設備投資、税金の支払いなどによって変わります。
このため「利益が返済額より大きいか」だけではなく、資金繰り表も合わせて確認することが大切です。
9.売掛金や在庫が増えすぎていないか
銀行が貸借対照表を見るときには、資産の「金額」だけでなく、その中身も重要です。
例えば売掛金が前年より大きく増えている場合、次のような点を確認します。
- 売上が増えた結果なのか
- 回収期間が長くなっていないか
- 長期間回収できていない売掛金が含まれていないか
在庫についても同じです。帳簿上は資産でも、長期間売れていない商品や実際には価値が下がっている在庫が多ければ注意が必要です。
社長自身が、自社の売掛金や在庫の中身を説明できる状態にしておきましょう。
10.「決算書を出すときだけ銀行と話す」では遅いことも
融資が必要になってから初めて銀行へ相談する会社もあります。
しかし、資金が足りなくなる直前になって「来月、1,000万円必要なので貸してください」と相談するよりも、早い段階から会社の状況や今後の計画を伝えておく方が、資金調達の準備をしやすくなります。
例えば、次のような内容を日頃から整理しておきます。
- 今期の売上・利益の見込み
- 設備投資の予定
- 人員採用の予定
- 大口取引の開始
- 今後の資金需要
銀行との関係も、決算書を年1回渡して終わりではなく、会社の現在と将来を数字で説明できる関係をつくっておくことが大切です。
11.融資の相談では「試算表」が重要になる
決算書は重要ですが、決算書に載っているのは基本的に過去の数字です。
例えば3月決算の会社が10月に融資を申し込む場合、前回の決算書だけでは4月から10月までの現在の業績が分かりません。
そこで重要になるのが月次試算表です。
例えば銀行へこう説明できます
「前期は営業利益500万円でしたが、今期は6か月で既に400万円出ています。」
毎月きちんと会計処理を行い、最新の試算表を作成していれば、現在の業績を数字で説明できます。
反対に、会計処理が半年以上遅れていて「今期が黒字なのか赤字なのか、まだ分かりません」という状態では、社長自身も今後の資金需要を判断しにくくなります。
月次決算を早く行うことは、税金を計算するためだけではなく、資金調達や経営判断のためにも意味があります。
12.銀行に説明できる会社は、社長自身が数字を分かっている
銀行から、次のような質問をされたとき、社長自身が答えられるでしょうか。
- 売上が増えた理由は何ですか?
- 粗利益率が下がっていますが、なぜですか?
- 在庫が増えている理由は何ですか?
- この借入金は何に使う予定ですか?
- 返済はどの利益から行いますか?
すべての会計科目を細かく説明できる必要はありません。
しかし、自社の売上、利益、現預金、借入金、今後の見通しといった重要な数字については、社長自身が把握しておきたいところです。
数字を把握している社長は、銀行への説明だけでなく、設備投資、採用、値上げなどの経営判断も行いやすくなります。
13.銀行は決算書だけで融資を決めるわけではない
ここまで決算書の数字について説明しましたが、実際の融資判断は決算書だけで決まるわけではありません。
金融機関や融資制度によって審査方法は異なりますが、例えば次のような内容も重要な判断材料になります。
- 事業内容
- 経営者の経験や姿勢
- 今後の事業計画
- 資金使途
- 返済計画
- 金融機関との取引状況
だからこそ、決算書の数字に問題がある場合でも、「なぜそうなったのか」「今後どう改善するのか」を説明できることが大切です。
14.社長が毎月確認したい5つの数字
- □ 売上高:前年・計画と比べて増えているか、減っているか
- □ 営業利益:本業で利益を出せているか
- □ 現預金:当面の支払いに耐えられる資金があるか
- □ 借入金残高・年間返済額:利益・キャッシュに対して返済負担が大きすぎないか
- □ 純資産:利益を積み上げ、会社の財務体質が強くなっているか
この5つを毎月確認するだけでも、会社の状態はかなり見えやすくなります。
税理士事務所からのワンポイントアドバイス
銀行対策というと、「決算前に何かできませんか?」と考える社長もいらっしゃいます。
しかし、本当に大切なのは決算直前の対策ではありません。
毎月の数字を早く把握し、利益を確保し、現預金を残し、純資産を積み上げる。必要な設備投資や借入については、資金繰りを予測して早めに相談する。
こうした経営を積み重ねた結果が決算書に表れます。
「銀行にどう見られるか」を考えることは、「自社の経営が健全か」を考えることでもあります。
融資が必要になる前に、会社の数字を整理しておきませんか?
澤田匡央税理士事務所では、決算・申告だけでなく、月次試算表をもとに利益、資金繰り、借入返済、設備投資などを確認し、経営判断に数字を活用することを重視しています。
「銀行に決算書のどこを見られているのか知りたい」
「今の借入金が多いのか少ないのか分からない」
「追加融資を受けても返済できるか確認したい」
「銀行へ提出する事業計画や数字を整理したい」
「半年後の資金繰りが心配」
このようなお悩みがある経営者の方は、資金が必要になる直前ではなく、余裕があるうちにご相談ください。
まとめ
銀行が融資を検討するとき、単に売上が大きいか、黒字かだけを見ているわけではありません。
社長が特に確認しておきたいのは、次の5つです。
- 本業で営業利益を出せているか
- 十分な現預金を確保できているか
- 借入金を無理なく返済できるか
- 純資産を積み上げられているか
- 最新の試算表で今後の見通しを説明できるか
これらは銀行のためだけに見る数字ではありません。
社長が会社を経営するために、本来見るべき数字そのものです。
「銀行に決算書を提出するときになって初めて数字を見る」のではなく、毎月の試算表で会社の状態を確認し、将来の資金繰りまで見える状態をつくっておきましょう。
参考情報
※本記事は、中小企業の経営者向けに融資と決算書の一般的な考え方を分かりやすく解説したものです。実際の融資審査基準や判断方法は金融機関、融資制度、企業の状況等によって異なります。また、本文中の返済力の計算例は考え方を理解するために簡略化したものであり、実際の資金繰りや融資審査を示すものではありません。







