毎月、税理士事務所から試算表を受け取っている。数字もたくさん並んでいる。でも、結局どこを見ればよいのか分からない――。
このように感じている社長は、決して珍しくありません。
売上高、仕入高、売上総利益、営業利益、経常利益、現預金、売掛金、借入金……。
試算表には経営に役立つ数字がたくさん載っていますが、すべてを一度に理解しようとすると、かえって重要な変化を見落としてしまうことがあります。
そこで今回は、細かな会計知識がなくても、社長が毎月まず確認しておきたい数字を「売上総利益(粗利益)」「営業利益」「現預金」の3つに絞って解説します。
大切なのは、数字を暗記することではありません。
「先月よりどう変わったか」「前年と比べてどうか」「なぜ変わったのか」を考えることです。
1.試算表は「税理士のための資料」ではありません
試算表というと、「税理士が決算や申告のために作る資料」という印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、本来は会社の現在地を確認し、次の経営判断に使うための重要な資料です。
例えば、試算表を毎月確認できれば、次のような変化に早く気づけます。
- 売上は増えているのに粗利益が減っている
- 人件費や外注費が想定以上に増えている
- 黒字なのに預金残高が減っている
- 売掛金の回収が遅れている
- 借入金返済の負担が重くなっている
年に一度、決算書が完成してから気づくのでは、対策できる時期を逃してしまいます。
試算表の価値は、「過去を記録すること」だけではなく、「早く気づいて次の行動を変えられること」にあります。
2.最初から全部の数字を理解しなくても大丈夫
試算表には多くの勘定科目があります。
経理担当者や税理士であれば細かな科目まで確認する必要がありますが、社長が毎月すべての科目を一つずつ追いかける必要はありません。
まずは会社の「稼ぐ力」「本業の利益」「手元のお金」をつかむことから始めましょう。
| まず見る数字 | 何が分かる? |
|---|---|
| ① 売上総利益(粗利益) | 商品・サービスそのものから、どれだけ利益を生み出せているか |
| ② 営業利益 | 人件費や家賃などを含め、本業で最終的にどれだけ利益を残せているか |
| ③ 現預金 | 会社が実際に使える手元資金がどれだけあるか |
この3つを毎月追うだけでも、会社の状態はかなり見えやすくなります。
3.見るべき数字①「売上総利益(粗利益)」
社長が最初に確認したいのは、売上高だけではなく売上総利益です。
一般には「粗利益」「粗利」と呼ばれることもあります。
基本的には、売上高から売上原価を差し引いた利益です。
例
売上高 1,000万円
売上原価 700万円
売上総利益 300万円
売上だけを見ていると、「今月は1,000万円売れたから好調だ」と感じるかもしれません。
しかし、前年同月が売上900万円・粗利益315万円だったとしたらどうでしょうか。
売上は100万円増えているのに、粗利益は15万円減っています。
値引きが増えた、仕入価格が上がった、利益率の低い商品が増えた、といった可能性があります。
つまり、「売上が増えたか」だけでなく「その売上からいくら粗利益を残せたか」を見ることが大切です。
4.粗利益は「金額」と「率」の両方を見る
売上総利益を見るときは、金額だけでなく売上総利益率(粗利益率)も確認しましょう。
例えば、売上高1,000万円に対して売上総利益300万円なら、粗利益率は30%です。
前年
売上高 900万円
粗利益 315万円
粗利益率 35%
今年
売上高 1,000万円
粗利益 300万円
粗利益率 30%
このケースでは売上高は増えていますが、粗利益率が5ポイント低下しています。
この変化を見つけたら、次に確認したいのは「なぜ」です。
- 仕入価格が上昇したのか
- 値引きが増えたのか
- 原価の高い案件が増えたのか
- 商品構成が変わったのか
- 外注費などの原価が上がったのか
原因が分かれば、値上げ、仕入先との交渉、商品構成の見直しなど、次の経営判断につなげることができます。
5.見るべき数字②「営業利益」
2つ目は営業利益です。
売上総利益から、給与、法定福利費、家賃、広告宣伝費、通信費、その他の販売費及び一般管理費を差し引いた、本業の利益です。
粗利益が十分に出ていても、人件費や固定費が増えすぎれば営業利益は残りません。
例
売上総利益 300万円
人件費 150万円
家賃 30万円
その他の経費 100万円
営業利益 20万円
売上が大きくても営業利益がほとんど残っていなければ、少し売上が落ちたり、原材料価格や人件費が上がったりしただけで赤字になる可能性があります。
社長としては、「売上はいくらか」から一歩進んで、「本業で最終的にいくら利益を残せたか」を毎月確認することが重要です。
6.営業利益は「前年同月」と「累計」で見る
単月の営業利益だけでは、季節変動や一時的な支出に左右されることがあります。
そこで、毎月の試算表では次の3つを並べて見ると分かりやすくなります。
- 当月の営業利益
- 前年同月の営業利益
- 期首から当月までの累計営業利益
予算を作成している会社であれば、予算との比較も有効です。
例えば、今月だけ100万円の赤字でも、賞与を支給した月であり、累計では計画どおり黒字なら、必要以上に心配する必要はないかもしれません。
反対に、毎月少しずつ計画を下回り、累計利益が減り続けているのであれば、決算直前まで待たずに対策を考える必要があります。
単月の数字に一喜一憂せず、流れを見る。
これが試算表を経営に使う基本です。
7.見るべき数字③「現預金」
3つ目は現金・預金の残高です。
会社は利益が出ていても、支払日に現金がなければ事業を続けることができません。
第3話で解説したように、黒字と現金の増減は一致しません。
売掛金が増えた、在庫を増やした、設備を購入した、借入金の元金を返済した、税金を支払った――。
こうした取引によって、黒字でも預金は減ります。
そのため、試算表を見るときは利益だけで終わらず、必ず貸借対照表の現預金残高も確認してください。
見るポイントは単純です。
- 前月末より増えたか、減ったか
- 期首より増えたか、減ったか
- 前年同月末と比べてどうか
- 減っているなら、その理由を説明できるか
「黒字だから大丈夫」ではなく、「黒字で、なおかつ必要な現金も確保できているか」を見ることが大切です。
8.3つの数字は「別々」ではなく、つなげて見る
売上総利益、営業利益、現預金。
この3つは別々に見るだけでなく、つなげて考えると会社の状態がさらに分かりやすくなります。
| 数字の動き | 考えられること |
|---|---|
| 粗利益 ↓ | 仕入価格上昇、値引き、商品構成の変化など |
| 粗利益は維持・営業利益 ↓ | 人件費、広告費、家賃など販管費の増加 |
| 営業利益は黒字・現預金 ↓ | 売掛金、在庫、設備投資、借入返済、納税など |
| 粗利益 ↑・営業利益 ↑・現預金 ↑ | 本業の収益と資金の両面が改善している可能性 |
このように順番に見れば、「どこから会社の状態が変わったのか」を探しやすくなります。
9.「利益率は何%なら正解?」と考えすぎない
「粗利益率は何%あればいいですか?」「営業利益率は何%なら優良企業ですか?」と聞かれることがあります。
しかし、適正な利益率は業種やビジネスモデルによって大きく異なります。
製造業、小売業、建設業、サービス業では原価構造が違いますし、同じ業種でも外注を多く使う会社と自社社員で対応する会社では数字の出方が変わります。
そのため、まず重視したいのは自社の過去との比較です。
- 前年同月と比べてどうか
- 過去3年と比べてどうか
- 予算と比べてどうか
- 数字が変化した理由を説明できるか
そのうえで、必要に応じて同業他社や業界平均との比較を行うと、自社の強み・弱みがさらに見えやすくなります。
10.3つの数字に慣れたら、次に見る数字
売上総利益、営業利益、現預金を毎月確認する習慣ができたら、次の数字にも少しずつ範囲を広げてみましょう。
- 売掛金:売上代金がきちんと回収できているか
- 棚卸資産:在庫が増えすぎていないか
- 借入金:返済負担が重くなっていないか
- 自己資本:会社に利益の蓄積ができているか
- 人件費:粗利益とのバランスが崩れていないか
経済産業省の「ローカルベンチマーク」でも、企業の経営状態を把握する財務指標として、売上増加率、営業利益率、労働生産性、EBITDA有利子負債倍率、営業運転資本回転期間、自己資本比率などが用いられています。
ただし、最初からすべての指標を追う必要はありません。
自社にとって重要な数字を段階的に増やすほうが、継続しやすく実務的です。
11.試算表は「数字の一覧表」で終わらせない
毎月試算表を受け取っていても、数字の一覧表を眺めてファイルに保存するだけでは、十分に活用できているとはいえません。
例えば、毎月次のような形で確認すると、試算表が経営資料に変わります。
- 粗利益はいくらだったか
- 粗利益率は前月・前年から変化したか
- 営業利益はいくら残ったか
- 計画に対して進捗はどうか
- 現預金はいくらあるか
- 前月から現預金が増減した理由は何か
- 今後3か月〜半年の資金繰りに問題はないか
さらに、数字の羅列だけでなく、売上・粗利益・営業利益・現預金などをグラフで推移表示すると、変化を直感的につかみやすくなります。
社長に必要なのは、会計の専門用語を覚えることではありません。
数字から会社の変化を読み取り、次に何をするか判断できることです。
12.税理士にこの3つを質問してみてください
「試算表を見てもよく分からない」という社長は、税理士や担当者へ次の3つを聞いてみてください。
質問①
「今月の粗利益率は前年と比べてどうですか?変わった理由は何ですか?」
質問②
「今期の営業利益は、このままいくと決算でどのくらいになりそうですか?」
質問③
「利益は出ていますが、預金は今後増えそうですか?減りそうですか?」
この3つに対して、会社の実情に合わせた説明が返ってくれば、数字を経営判断へつなげやすくなります。
さらに、「なぜそうなったのか」「今後どうすればよいのか」まで話し合えると、月次の数字はより価値のある情報になります。
税理士事務所からのワンポイントアドバイス
試算表を理解するために、簿記の勉強から始める必要はありません。
まず毎月、「粗利益」「営業利益」「現預金」の3つだけを同じ順番で確認してみてください。
そして、金額を見るだけで終わらず、
「前月・前年と比べて変わったか」「なぜ変わったか」を確認します。
これを繰り返すと、「売上は伸びているけれど粗利率が落ちている」「利益は出ているけれど現金が減っている」といった会社の変化に早く気づけるようになります。
試算表は、分かる人だけが読む会計資料ではなく、社長が会社の現在地を確認するための経営資料です。
試算表を「もらうだけ」になっていませんか?
澤田匡央税理士事務所では、単に試算表を作成するだけでなく、会社の数字を経営判断に活かしていただくことを重視しています。
「試算表を見ても、どこを見ればよいか分からない」
「売上は増えているのに利益が残らない」
「黒字なのに預金が減っている理由を知りたい」
「決算までにどのくらい利益が出そうか知りたい」
「数字を見ながら今後の経営について相談したい」
このようなお悩みがある経営者の方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
試算表にはたくさんの数字が載っていますが、最初からすべて理解する必要はありません。
社長がまず毎月確認したいのは、次の3つです。
- 売上総利益(粗利益)――商品・サービスから利益を生み出せているか
- 営業利益――本業で最終的に利益を残せているか
- 現預金――会社に実際のお金が残っているか
そして重要なのは、数字そのものよりも「なぜ増えたのか」「なぜ減ったのか」を確認することです。
毎月同じ数字を追い続ければ、会社の変化に早く気づけるようになります。
数字を見る → 変化に気づく → 原因を確認する → 次の行動を決める。
このサイクルを作ることが、試算表を「申告のための資料」から「経営のための資料」へ変える第一歩です。
参考情報
※本記事は一般的な中小企業経営における数字の見方を解説したものです。重要となる指標や適正水準は、業種、事業規模、資金調達状況、ビジネスモデル等によって異なります。







