「去年より売上は増えている。決算書でも利益が出ている。それなのに、なぜ銀行口座のお金は増えないのだろう?」
会社を経営していると、このような疑問を感じることがあります。
売上が増え、損益計算書では黒字なのに、月末になると資金繰りが苦しい。
税金を支払うと預金残高が一気に減る。
設備投資や借入金返済が重なり、「利益はどこへ消えたのか」と感じる。
実は、「利益が出ていること」と「現金が増えていること」は同じではありません。
この違いを理解していないと、黒字だから大丈夫だと思っていたのに、
突然資金が不足するということも起こり得ます。
新シリーズ「社長、その数字ちゃんと見えていますか?」では、
中小企業の社長が経営判断をするうえで最低限知っておきたい数字を、
できるだけ分かりやすく解説します。
第1話では、売上や利益が増えているのに会社にお金が残らない主な理由と、
社長が毎月確認しておきたいポイントを取り上げます。
1.まず知っておきたい「利益」と「現金」の違い
会社の損益計算書に表示される利益は、
一定期間の売上から、その売上を得るために必要となった仕入れや経費を差し引いて計算します。
一方、預金残高は、実際に会社へ入ってきたお金と、
実際に会社から出ていったお金の結果です。
この2つは、計算の仕組みが違うため一致しません。
例えば、3月に100万円の商品を販売しても、
入金が5月であれば、3月の売上には100万円が計上されますが、
3月時点では預金は増えていません。
反対に、銀行から1,000万円を借りれば預金残高は1,000万円増えますが、
借入金は売上ではないため利益は増えません。
この違いを理解することが、
会社の資金繰りを考える第一歩です。
2.理由① 売上は増えたが、まだ入金されていない
売上が増えているのに現金が増えない最も分かりやすい原因が、
売掛金の増加です。
例えば、今月500万円を売り上げたとしても、
得意先からの入金が翌月末や翌々月末であれば、
その間は会社が資金を立て替えている状態になります。
売上が急速に伸びる会社ほど、
売掛金も増えやすいため注意が必要です。
次のような状態になっていないか確認してみましょう。
- 売上の増加以上に売掛金が増えている
- 以前より入金サイトが長くなっている
- 特定の得意先の未回収額が増えている
- 支払期限を過ぎた売掛金が残っている
損益計算書だけを見ていると「売上が増えて順調」に見えても、
売掛金の回収が遅ければ資金繰りは悪化します。
3.理由② 在庫にお金が変わっている
商品や材料を仕入れるためには現金が必要です。
仕入れた商品がすぐに売れず、倉庫に残っている場合、
会社のお金は在庫という形に変わっています。
例えば、1,000万円の商品を仕入れて700万円分しか販売していなければ、
残りの商品は在庫として残ります。
在庫は資産なので、仕入れた全額がその期の経費になるわけではありません。
そのため、利益は出ているのに、仕入代金の支払いによって現金が減ることがあります。
特に次のような会社は注意が必要です。
- 商品点数が多い
- 季節商品を扱っている
- 材料を大量に購入する
- 値上げ前にまとめ買いをしている
- 長期間売れていない商品がある
在庫が増えている場合は、
「売れる予定の資産」ではなく、
現金が倉庫に眠っていると考えて確認することも大切です。
4.理由③ 借入金の返済は経費にならない
社長が特に理解しておきたいのが、借入金の返済です。
銀行へ毎月50万円返済している場合、
会社の預金からは50万円が減ります。
しかし、その50万円すべてが経費になるわけではありません。
借入金の返済のうち、元金部分は損益計算書の経費にはならず、
借入金という負債が減る処理になります。
そのため、会社が年間600万円の利益を出していても、
年間600万円の借入元金を返済していれば、
単純に考えると利益によって生み出した資金の多くが返済に回ります。
さらに、そこから法人税等の支払いも必要です。
「黒字なのに預金が増えない」という会社では、
借入金返済額が大きな原因になっているケースがあります。
5.理由④ 設備投資にお金を使っている
車両、機械、パソコン、店舗設備などを購入すると、
会社からまとまったお金が出ていきます。
ところが、高額な設備は購入した年に全額を経費にできるとは限りません。
多くの場合は固定資産として計上し、
耐用年数に応じて減価償却費として少しずつ経費にします。
例えば、600万円の設備を現金で購入すれば、
その時点で預金は600万円減ります。
しかし、損益計算上は、その年に600万円全額が費用になるとは限りません。
そのため、利益は出ているのに、
設備投資によって預金残高が大きく減ることがあります。
設備投資を行う際は、
「利益があるから買える」だけでなく、
購入後の現預金と今後の資金繰りまで確認する必要があります。
6.理由⑤ 税金の支払いがある
利益が出れば、法人税、地方法人税、法人事業税、法人住民税などの負担が発生します。
また、消費税は利益とは異なる仕組みで計算されるため、
赤字であっても納税が必要になる場合があります。
特に注意したいのが、売上と一緒に受け取った消費税相当額です。
消費税は、事業者が売上時に受け取った消費税額から、仕入れや経費などで支払った消費税額を差し引くなどして納付税額を計算するため、
売上とともに入金された金額を、そのまま自由に使える会社の利益と考えないことが大切です。
決算時になって納税資金が足りないという事態を避けるため、
消費税の納税見込額を定期的に確認し、必要に応じて納税用の資金を別口座へ移しておくなど、
あらかじめ資金を確保しておく方法も有効です。
決算書で利益を確認したときにはまだ税金を支払っておらず、
申告時にまとまった納税を行うことで、
預金残高が大きく減ることもあります。
そのため、社長が見るべきなのは、
「今いくら利益が出ているか」だけではありません。
決算までにどれくらい利益が出そうか、税金はいくらになる見込みか、
納税後にいくら現金が残るかまで確認することが重要です。
7.理由⑥ 社長への貸付けや私的支出が増えている
中小企業では、会社と社長個人のお金の境界が曖昧になることがあります。
会社の口座から社長個人の支出を支払った場合、
そのすべてが会社の経費になるとは限りません。
内容によっては役員貸付金などとして処理され、
利益は減らないまま会社の現金だけが減ります。
役員貸付金が増えている会社では、
損益計算書上は利益が出ているのに、
会社のお金が社外へ流出している状態になっていることがあります。
毎月の試算表では、損益計算書だけでなく、
貸借対照表の役員貸付金なども確認しましょう。
8.社長が毎月見るべきなのは「売上」と「利益」だけではない
社長が会社の状況を把握するためには、
少なくとも次の数字をセットで見ることをおすすめします。
- 売上高 ― 商売の規模がどう変化しているか
- 営業利益・経常利益 ― 本業で利益が残っているか
- 現預金残高 ― 実際に使えるお金はいくらあるか
- 売掛金 ― まだ回収できていない売上はいくらか
- 在庫 ― 商品や材料にいくら資金が滞留しているか
- 借入金残高・返済額 ― 今後どれだけ返済する必要があるか
- 納税見込み ― 決算後にどれくらい現金が必要か
「利益が出ているから安心」と一つの数字だけを見るのではなく、
利益と貸借対照表と現金を一緒に見ることが重要です。
9.簡単な例で考えてみましょう
ある会社の1年間
- 税引前利益:1,000万円
- 売掛金の増加:300万円
- 在庫の増加:100万円
- 借入金元金の返済:300万円
- 設備投資:200万円
この会社は損益計算書では1,000万円の利益を計上しています。
しかし、売掛金や在庫へ資金が移り、
借入金返済や設備投資でも現金が出ていきます。
さらに、この後には税金の支払いもあります。
したがって、「利益1,000万円=預金が1,000万円増える」わけではありません。
この仕組みを理解すると、
黒字なのにお金が増えない理由が見えやすくなります。
10.重要なのは「数か月先の現金」を見ること
預金通帳の残高だけを見て、
「今月はまだお金があるから大丈夫」と判断するのは危険です。
今後、次のような支払いが控えているかもしれません。
- 仕入代金
- 給与・賞与
- 社会保険料
- 借入金返済
- 法人税・消費税
- 設備投資
一方で、売掛金がいつ入金されるのかも確認する必要があります。
そこで役に立つのが資金繰り表です。
少なくとも今後3か月から半年程度について、
入金予定と支払予定を整理し、
月末の預金残高がどのように推移するかを確認します。
資金が不足する可能性を数か月前に把握できれば、
金融機関への相談、投資時期の変更、回収条件の見直しなど、
取れる対策は増えます。
11.税理士から試算表をもらったら、こんな質問をしてみましょう
試算表を受け取ったとき、
数字を見るだけで終わらせず、税理士へ次のように聞いてみてください。
- 利益が出ているのに現金が増えていない理由は何ですか?
- 売掛金や在庫は増えすぎていませんか?
- 借入金を返済した後、どの程度現金が残りますか?
- 決算までの利益と納税額はいくらになりそうですか?
- 半年後までの資金繰りに問題はありませんか?
- 設備投資をしても資金は足りますか?
この質問に対して、
損益計算書だけでなく、貸借対照表や資金繰りまで含めて説明してもらえると、
会社の数字は経営判断に使える情報へ変わります。
12.「黒字倒産」はなぜ起きるのか
会社は利益が出ていても、
支払日に必要な現金を用意できなければ経営を続けられません。
このため、会計上は黒字であっても、
資金繰りが行き詰まることがあります。
特に売上が急激に増えている会社では、
仕入れ、人件費、外注費などを先に支払い、
売上代金の入金が後になることで資金不足が起きやすくなります。
「売上が伸びている会社ほど資金が必要になることがある」
という点は、成長期の中小企業にとって重要なポイントです。
税理士事務所からのワンポイントアドバイス
社長が毎月確認すべきなのは、
「今月いくら儲かったか」だけではありません。
利益はどこへ行ったのか、現在いくら現金があるのか、
そして数か月後にいくら現金が残るのか。
ここまで見て初めて、
設備投資、採用、借入れ、返済、納税などについて
安心して判断できるようになります。
試算表を毎月作っていても、
数字の説明を受けずファイルへ保管しているだけではもったいありません。
毎月の数字を「申告のため」ではなく、
「次の経営判断のため」に使っていきましょう。
利益は出ているのに、お金が残らないと感じていませんか?
澤田匡央税理士事務所では、
毎月の試算表を作成・確認するだけでなく、
売上、利益、現預金、売掛金、借入金などを確認し、
会社のお金がどのように動いているのかを分かりやすくご説明します。
「黒字なのに預金が増えない」
「税金を払った後の資金が心配」
「設備投資をしてよいか判断したい」
「借入金をどこまで返済できるか知りたい」
「数か月先の資金繰りを確認したい」
このようなお悩みがある場合は、お気軽にご相談ください。
まとめ
売上や利益が増えていても、
会社の預金残高が同じように増えるとは限りません。
売掛金や在庫の増加、借入金返済、設備投資、納税などによって、
利益とは別に現金が動くからです。
社長は損益計算書の利益だけでなく、
貸借対照表の現預金、売掛金、在庫、借入金なども一緒に確認しましょう。
さらに、今後3か月から半年程度の資金繰りを予測しておけば、
資金不足を早めに把握し、余裕を持って対策できます。
「会社は儲かっているか」に加えて、「会社にお金は残るか」を見る。
これが、社長が数字を経営に生かすための重要な第一歩です。







