1. 雇用確保措置の現状:希望者全員「65歳」まで
高年齢者雇用安定法により、事業主は以下のいずれかの措置を講じる義務があります。経過措置の終了に伴い、現在は希望者全員への適用が原則です。
① 定年制の廃止
年齢による一律の退職制度をなくします。
② 定年の引上げ
定年を65歳以上に設定します。
③ 継続雇用制度の導入
定年後も希望者を再雇用(嘱託・契約社員等)します。
※「定年65歳」そのものが義務化されたわけではありませんが、実務上は「65歳まで働ける環境」を整えることが必須となっています。
2. 令和8年4月:在職老齢年金「支給停止ライン」の引上げ
働きながら厚生年金を受給する場合、月収と年金の合計額が基準を超えると年金がカットされる「在職老齢年金」。この基準額が大幅に緩和されます。
| 改正前(現在) |
合計額が 51万円 を超えると支給停止 |
| 改正後(令和8年4月〜) |
合計額が 62万円 を超えるまで全額受給可能 |
経営・実務への影響
- 就業機会の拡大:支給停止を嫌って労働時間を抑えていた層が、より意欲的に働くようになります。
- 賃金設計の見直し:年金受給を前提とした「低賃金設定」から、貢献度に見合った賃金体系へのシフトがしやすくなります。
3. 令和8年4月:高年齢労働者の「労災防止対策」が努力義務に
60歳以上の労働者の労働災害が増加傾向にあることを受け、作業環境の改善が事業主の努力義務となります。厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」に基づいた対応が推奨されます。
具体的な対策例
- 設備対策:通路の段差解消、照明の増設(照度確保)、手すりの設置。
- 身体負荷の軽減:重量物運搬の自動化、アシストスーツの導入、こまめな休憩設定。
- 健康管理:定期健診の徹底と、個々の体力に合わせた業務割り当て。
4. 税務・実務における注意点:源泉徴収と年末調整
シニア雇用の形態(再雇用・定年延長・短時間勤務)を変更する場合、税務上の処理も再確認が必要です。
源泉徴収義務の遂行
給与を支払う際、事業主は所得税および復興特別所得税を源泉徴収する義務があります。特に「年金受給者」を雇用する場合、以下の点に留意してください。
- 扶養控除等申告書の提出:主たる給与の支払い先を明確にし、甲欄・乙欄を正しく適用します。
- 社会保険料控除:給与から天引きされる社会保険料だけでなく、本人が直接支払っている国民健康保険料等の有無も年末調整に関わります。
- 給与等と退職金の区分:定年時に退職金を支払う場合は、退職所得の受領に関する申告書の回収が必要です。
令和8年に向けた「シニア雇用」チェックリスト
- 就業規則の改定:定年・継続雇用に関する規程、賃金体系は最新の法律に合致しているか?
- 雇用契約の書面化:意思確認は「口頭」ではなく「面談+書面」で行っているか?
- 手取り額のシミュレーション:年金+給与+税・社会保険料を考慮した「見える化」ができているか?
- 安全点検の実施:職場の段差や照明など、高年齢者が安全に働ける環境になっているか?
- 源泉徴収事務の整理:再雇用者の給与区分や扶養関係の再把握ができているか?