相続税や贈与税では、財産は原則として「時価」で評価されます。
もっとも、不動産の評価は実際の売買価格そのものではなく、財産評価基本通達に基づいて行われるため、
貸付用不動産では市場価格より相続税評価額のほうが低くなるケースが少なくありません。
こうした評価差を利用した相続・贈与対策は、これまで実務上広く知られてきましたが、
令和8年度税制改正では、一定の貸付用不動産や不動産小口化商品について、
評価方法の見直しが行われる予定です。
なお、不動産評価の見直しは今回が初めてではありません。
令和6年からは、いわゆる「タワーマンション節税」への対応として、
マンションの相続税評価額について市場価格との乖離を補正する仕組みが導入されています。
今回の改正は、こうした一連の流れの中で、
不動産評価の適正化をさらに進める措置と位置づけられます。
1.なぜ貸付用不動産が相続対策で使われてきたのか
現行ルールでは、相続税や贈与税の財産評価は、財産評価基本通達に基づいて行われます。
国税庁は、財産の価額は課税時期における時価によるとしたうえで、その具体的な評価方法を通達で定めています。
たとえば、賃貸アパートや賃貸マンションの敷地は「貸家建付地」として評価され、
借地権割合や借家権割合、賃貸割合などを反映して評価額が下がる仕組みがあります。
建物についても、一般に固定資産税評価額を基礎に計算するため、
実際の建築費や購入価額、売買価格よりも低い評価になることがあります。
その結果、現金で保有するよりも、貸付用不動産に組み替えたほうが相続税評価額を圧縮しやすく、
節税策として利用されてきました。
2.これまでよく見られた対策の例
- 遊休地に賃貸アパートや賃貸マンションを建築する
- 一棟売りの賃貸マンションや賃貸ビルを取得する
- 不動産小口化商品や不動産信託受益権を購入して贈与・相続対策に活用する
これらは、実際の取得価額や市場価格に比べて、相続税評価額が大きく下がる場合がありました。
とくに、相続や贈与の直前に取得した貸付用不動産については、
「短期間で大きく評価額を下げられるのではないか」という点が問題視されてきました。
3.令和8年度税制改正で何が変わるのか
財務省の「令和8年度税制改正の大綱」では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離を踏まえ、
相続税等の財産評価の適正化が盛り込まれました。
見直しの柱は、大きく分けると次の2つです。
- 課税時期前5年以内に取得または新築した一定の貸付用不動産は、通常の取引価額に相当する金額で評価する
- 不動産小口化商品は、取得時期にかかわらず通常の取引価額に相当する金額で評価する
4.5年以内に取得・新築した貸付用不動産はどう評価される?
被相続人等が、相続や贈与の課税時期前5年以内に取得または新築した貸付用不動産については、
通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされています。
さらに、課税上の弊害がない場合には、
取得価額の80%相当額による評価が認められる方向で検討されています。
5.不動産小口化商品はさらに厳格化
不動産小口化商品については、取得時期にかかわらず、
通常の取引価額に相当する金額で評価することとされています。
この点は、一般の貸付用不動産よりも厳しい取扱いとなるため注意が必要です。
6.適用時期
本改正は、令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用される予定です。
7.経過措置の考え方
一定の場合には、従来の評価方法が適用される経過措置が設けられる予定です。
特に、長期間保有している土地の上に建築された貸付用不動産などは、
対象外となる可能性があります。
8.実務上の注意点
- 短期保有の貸付用不動産による節税効果は大きく制限される見込み
- 不動産小口化商品は取得時期に関係なく影響を受ける
- 制度の詳細は今後の通達で明確化される予定
-
「取得時期」の判定(契約日・引渡日など)についても、
現時点では明確なルールは示されておらず、
今後の通達の内容を確認する必要があります - 拙速な駆け込み対策は税務リスクにつながる可能性がある
9.まとめ
今回の改正は、不動産を利用した相続対策全体に影響を与える重要な見直しです。
特に、短期間で評価額を圧縮するスキームについては、
今後は慎重な検討が必要になります。
相続対策は、税制改正の動向を踏まえつつ、
長期的な視点で設計することが重要です。
不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。







