年末調整の時期になると、会社から従業員へさまざまな申告書が配布されます。
「どの書類を書けばいいの?」「保険会社から届いた控除証明書は必要?」「転職した場合は何を出すの?」と迷う方も多いのではないでしょうか。
令和8年(2026年)分の年末調整では、税制改正に対応した申告書を使用する必要があります。特に、基礎控除や配偶者控除、特定親族特別控除などを記載する申告書は、改正後の金額に対応した様式になっています。
今回はシリーズ第5話として、令和8年分の年末調整で会社へ提出する主な書類と、経理・総務担当者が確認しておきたい実務上の注意点を整理します。
1.年末調整の書類は「全員同じ」ではありません
年末調整では、すべての従業員がまったく同じ書類・証明書を提出するわけではありません。
本人の家族構成、保険料の支払い、住宅ローン控除の有無、転職歴などによって必要書類が変わります。
主な書類を整理すると、次のようになります。
| 主な書類 | 主な目的 |
|---|---|
| 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養親族等の状況を申告する |
| 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | 基礎控除、配偶者控除等、特定親族特別控除、所得金額調整控除を申告する |
| 給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料、地震保険料、一定の社会保険料等の控除を申告する |
| 住宅借入金等特別控除申告書等 | 住宅ローン控除を年末調整で受ける |
| 前職の給与所得の源泉徴収票 | 年の途中で転職した場合に前職分を含めて年末調整する |
会社から配布された書類を一律に記入するのではなく、自分がどの控除を受けるのかを確認して必要な情報を正しく申告することが大切です。
2.給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、年末調整だけでなく、毎月の給与から源泉徴収する所得税額を計算するうえでも重要な書類です。
主たる給与の支払者へ提出し、本人や扶養親族等の状況を申告します。
例えば、次のような情報を確認します。
- 本人の氏名・住所など
- 源泉控除対象配偶者の有無
- 控除対象扶養親族の状況
- 障害者、寡婦、ひとり親、勤労学生などへの該当状況
- 住民税に関する事項
扶養親族等の状況が年の途中で変わった場合には、内容の見直しが必要になることがあります。
特に令和8年分では扶養親族等の所得要件が改正されていますので、前年の内容をそのまま写すのではなく、家族の年齢や所得見込みを改めて確認しましょう。
3.令和8年分には「簡易な扶養控除等申告書」もあります
国税庁は、令和8年分の扶養控除等申告書について通常様式に加えて「簡易な申告書」の様式も公表しています。
前年に勤務先へ提出した扶養控除等申告書に記載した事項から異動がない場合など、一定の要件を満たす場合には、簡易な申告書として提出できる仕組みがあります。
ただし、「前年とほとんど同じだから簡易版でよいだろう」と自己判断するのではなく、簡易な申告書として提出できる要件を確認する必要があります。
会社側で簡易な申告書を利用する場合は、従業員への案内方法や前年情報との確認方法をあらかじめ決めておくとスムーズです。
4.基礎控除・配偶者控除等・特定親族特別控除などは一体型の申告書で確認
年末調整で特に名称が長く、分かりにくく感じやすいのが、
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」
です。
この一体型の申告書では、該当する人が主に次の控除について申告します。
- 基礎控除
- 配偶者控除・配偶者特別控除
- 特定親族特別控除
- 所得金額調整控除
令和8年分の様式では、基礎控除額の引上げ等を反映して「控除額の計算」の表や配偶者控除等の判定欄などが改正されています。
そのため、会社側は令和7年分の旧様式を流用せず、必ず令和8年分の様式を使用するよう注意しましょう。
5.本人や配偶者の「所得見積額」を正しく記載する
基礎控除や配偶者控除等を判定するときに重要なのが、本人や配偶者の所得金額です。
ここでよくある間違いが、「収入」と「所得」を同じものとして記載してしまうことです。
給与だけの場合には、給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を計算します。
また、副業、不動産所得、事業所得など給与以外の所得がある場合には、それらも考慮する必要があります。
年末調整の申告書を提出する時点では年間所得がまだ確定していないこともあるため、合理的に見積もった金額を記載します。
年末に給与や副業収入が大きく変わった場合は、提出済みの見積額と実際の金額に大きな差がないか確認しましょう。
6.給与所得者の保険料控除申告書
生命保険料控除や地震保険料控除などを年末調整で受ける場合に使用するのが「給与所得者の保険料控除申告書」です。
主に次のような控除について記載します。
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
生命保険会社などから秋頃に届く「生命保険料控除証明書」「地震保険料控除証明書」などは、年末調整まで保管しておきましょう。
また、自分で支払った国民年金保険料等について社会保険料控除を受ける場合には、支払金額を証明する書類の提出等が必要です。
7.令和8年分の保険料控除申告書にも変更点があります
令和8年分の保険料控除申告書では、生命保険料控除欄に23歳未満の扶養親族を有する場合の特例に対応した記載欄が追加されています。
そのため、保険料控除申告書についても前年の用紙を使い回さず、令和8年分の最新様式を使用することが重要です。
会社の給与・年末調整システムを利用している場合には、令和8年分の様式変更に対応したアップデートが行われているか確認しておきましょう。
8.控除証明書をなくした場合はどうする?
生命保険料控除証明書などを紛失してしまった場合は、そのままにせず、契約している保険会社等へ再発行の可否を確認しましょう。
近年は、保険会社等から控除証明書を電子データで取得できるケースも増えています。
年末調整直前に紛失に気付くと再発行が間に合わない可能性もあるため、会社から案内が届いたら早めに必要書類を確認することをおすすめします。
9.住宅ローン控除は「初年度」と「2年目以降」で手続きが違います
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)については、原則として初年度は確定申告が必要です。
一定の要件を満たし、初年度に確定申告を行った後は、2年目以降について会社員であれば年末調整で控除を受けることができます。
年末調整で住宅ローン控除を受ける際には、住宅借入金等特別控除申告書など、必要な情報・書類を準備します。
電子交付を選択している場合には、e-Taxのメッセージボックスへ電子ファイルが格納される場合もあります。
住宅ローン控除は取得時期や住宅の種類などによって要件が異なるため、該当する年分の書類を確認して手続きを行いましょう。
10.年の途中で転職した人は「前職の源泉徴収票」を確認
令和8年中に転職し、年末まで現在の会社に勤務している人については、一定の場合、現在の勤務先が前職分の給与を含めて年末調整を行います。
その際に必要になるのが、前の勤務先から交付された「給与所得の源泉徴収票」です。
前職の給与額や源泉徴収税額などが確認できなければ、現在の勤務先で正確な年末調整を行えないことがあります。
会社側では、中途採用者に対して早めに前職の源泉徴収票の提出状況を確認しておきましょう。
従業員側も、退職した会社から源泉徴収票を受け取ったら、年末調整まで大切に保管してください。
11.年末調整では処理できない控除もあります
書類を会社へ提出すれば、すべての所得控除や税額控除を年末調整で受けられるわけではありません。
代表的なものとして、次のような控除は原則として確定申告で手続きを行います。
- 医療費控除
- 寄附金控除
- ふるさと納税(ワンストップ特例が適用されない場合)
- 住宅ローン控除の初年度
年末調整を受けた会社員でも、これらの控除を受けるために確定申告が必要になることがあります。
「会社へ全部の領収書を渡せば処理してもらえる」というわけではありませんので注意しましょう。
12.会社側は「回収期限」を早めに設定する
年末調整の実務で負担になりやすいのが、書類の回収と不備確認です。
従業員数が多い会社では、提出期限を12月ぎりぎりにすると、
- 未提出者への催促
- 記載漏れの確認
- 所得見積額の確認
- 控除証明書等の不足確認
- 扶養親族等の状況確認
- 転職者の源泉徴収票の確認
が一度に集中してしまいます。
会社側では、年末調整の計算期限から逆算して、余裕を持った社内提出期限を設定することが大切です。
例えば、10月から11月頃に従業員へ案内し、早めに書類やデータを回収して不備確認を始めておくと、年末の事務負担を減らしやすくなります。
13.年末調整の電子化も検討できます
年末調整は、紙だけで行う必要はありません。
国税庁では「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」など、年末調整手続の電子化に関する情報を提供しています。
電子化によって、従業員が給与収入や配偶者情報などを入力し、控除額を自動計算できるなど、記入ミスや計算負担を減らせる場合があります。
また、保険料控除証明書等を電子データで取得・利用できる仕組みを活用すれば、紙の証明書を転記する手間の削減にもつながります。
ただし、システムを導入するだけで年末調整が自動的に正しくなるわけではありません。
従業員への案内、提出状況の管理、入力内容の確認という基本的な業務は引き続き重要です。
14.経理・総務担当者向け「提出書類チェックリスト」
令和8年分の年末調整を始める前に、次の項目を確認しておきましょう。
- 令和8年分の最新様式を使用しているか
- 扶養控除等申告書の提出・内容確認ができているか
- 基礎控除・配偶者控除等・特定親族特別控除等の申告内容を確認したか
- 保険料控除申告書と必要な控除証明書等を確認したか
- 住宅ローン控除対象者の必要書類を確認したか
- 中途採用者の前職の源泉徴収票を確認したか
- 扶養親族や配偶者の所得見積額に大きな誤りがないか
- 年末調整ソフトが令和8年分の改正に対応しているか
- 未提出者・不備書類を早めに洗い出しているか
年末調整は「12月になってから始める業務」ではなく、早めに準備を始めるほどスムーズになります。
15.税理士からのワンポイントアドバイス
年末調整で大切なのは、書類を集めることそのものではなく、正しい情報を期限までに集めることです。
特に令和8年分は、基礎控除、給与所得控除、扶養親族等の所得要件などが改正されています。
「去年と同じ家族構成だから、去年の書類を見ながら同じように書けばよい」と考えると、所得要件や控除額の変更を見落とす可能性があります。
会社側も従業員側も、令和8年分の最新様式と最新の年収・所得見込みを使って確認することがポイントです。
また、年末調整書類の電子化を進める場合は、単なるペーパーレス化だけでなく、提出状況の見える化や入力チェックまで含めて運用方法を整えると、翌年以降の年末調整業務も効率化しやすくなります。
16.まとめ|「誰が、どの書類を出すのか」を早めに整理しましょう
令和8年分の年末調整で確認したい主な書類は次のとおりです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 住宅ローン控除関係書類(対象者)
- 前職の給与所得の源泉徴収票(転職者等)
これに加えて、生命保険料控除証明書や国民年金保険料等の証明書など、本人の状況に応じた確認資料が必要になります。
会社側では、従業員ごとに必要書類が異なることを前提として、早めに案内・回収・不備確認を進めましょう。
次回の第6話では、シリーズの最後として、「年収の壁」はどう変わった?178万円・社会保険106万円などを整理を取り上げます。
令和8年(2026年)年末調整を税理士がわかりやすく解説
- 第1話|令和8年の年末調整は何が変わる?税制改正のポイントを解説
- 第2話|そもそも年末調整とは?会社員の所得税が精算される仕組み
- 第3話|令和8年分の給与所得控除・基礎控除はどう変わる?
- 第4話|配偶者控除・扶養控除はいくらまで?令和8年の「年収ライン」を整理
- 第5話|年末調整で会社へ提出する書類は?令和8年分の必要書類と注意点
- 第6話|「年収の壁」はどう変わった?178万円・社会保険106万円などを整理
参考情報
※本記事は令和8年8月時点で国税庁から公表されている令和8年分年末調整関係様式等を基に、一般的な内容を分かりやすく解説したものです。個別の状況によって必要書類や取扱いが異なる場合がありますので、具体的な税務判断については税理士等の専門家へご確認ください。







