令和8年分の給与所得控除・基礎控除はどう変わる?|令和8年(2026年)年末調整【第3話】
令和8年(2026年)分の年末調整では、所得税の「給与所得控除」と「基礎控除」が改正されます。
ニュースなどでは「年収178万円」という数字が注目されていますが、実際の年末調整では、単純に「178万円まで税金がかからない」と覚えるだけでは不十分です。
給与所得控除と基礎控除は、それぞれ役割が異なります。また、基礎控除額は本人の合計所得金額によって異なるため、会社の経理・総務担当者は改正内容を正しく理解しておく必要があります。
今回はシリーズ第3話として、令和8年分の給与所得控除と基礎控除がどのように変わるのかを中心に、年末調整で注意したいポイントを整理します。
1.まず「給与所得控除」と「基礎控除」の違いを知っておきましょう
給与所得控除と基礎控除は、どちらも所得税の計算に関係する控除ですが、同じものではありません。
給与所得控除
会社員、パート、アルバイトなど、給与を受け取っている人の「給与所得」を計算する際に、給与収入から差し引く金額です。
個人事業主でいえば、収入から必要経費を差し引いて所得を計算する考え方があります。給与所得者については、実際に仕事のために使った経費を一つずつ差し引くのではなく、原則として給与収入に応じて一定額の給与所得控除を差し引きます。
基礎控除
基礎控除は、給与所得者に限らず、合計所得金額など一定の要件に応じて所得から差し引くことができる「所得控除」の一つです。
つまり、給与所得者の場合は大まかに、
給与収入 → 給与所得控除を差し引く → 給与所得を計算 → 基礎控除などの所得控除を差し引く
という順番で所得税の計算が進んでいきます。
2.令和8年分は給与所得控除の最低保障額が引き上げられます
令和8年度税制改正では、給与所得控除の最低保障額が見直されました。
令和7年分では最低保障額が65万円でしたが、令和8年分では本則の引上げと特例措置により、一定の給与収入の人について74万円となります。
内訳としては、最低保障額の本則部分が65万円から69万円へ引き上げられ、さらに令和8年分・令和9年分については5万円を上乗せする特例が設けられています。
| 項目 | 令和7年分 | 令和8年分 |
|---|---|---|
| 給与所得控除の最低保障額 | 65万円 | 74万円(69万円+特例5万円) |
したがって、令和8年分について「給与所得控除の最低保障額は69万円」とだけ理解すると、年末調整で実際に適用される特例部分を見落とすことになります。
給与収入が一定額を超える場合は給与収入に応じた別の計算となるため、実際の年末調整では改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」などを使用して確認します。
3.基礎控除の本則部分も引き上げられます
令和8年度税制改正では、基礎控除についても見直しが行われました。
合計所得金額が2,350万円以下の人について、基礎控除の本則部分が4万円引き上げられ、62万円となります。
| 合計所得金額 | 基礎控除の本則額 |
|---|---|
| 2,350万円以下 | 62万円 |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 |
ただし、令和8年分の基礎控除は、この本則額だけを見ればよいわけではありません。
中低所得者については、令和7年度税制改正で設けられた基礎控除の特例が、令和8年度税制改正でさらに見直されています。
4.令和8年・令和9年は「基礎控除の特例」にも注目
令和8年分および令和9年分については、合計所得金額が一定額以下の人に基礎控除の加算措置があります。
特に、合計所得金額489万円以下の人については、本則62万円に42万円が加算され、基礎控除額は104万円となります。
| 合計所得金額 | 令和8年・令和9年分の基礎控除額のイメージ |
|---|---|
| 489万円以下 | 104万円(62万円+42万円) |
| 489万円超 655万円以下 | 67万円(62万円+5万円) |
| 655万円超 2,350万円以下 | 62万円 |
なお、合計所得金額が2,350万円を超える人については、前述のとおり基礎控除額が段階的に縮小します。
このため、令和8年分の年末調整では、本人の合計所得金額を正しく見積もり、どの基礎控除額が適用されるのかを確認することが重要になります。
5.「年収178万円」はどうやって出てくる?
令和8年度税制改正で大きく報道されたのが、所得税の負担開始水準、いわゆる「課税最低限178万円」です。
給与収入のみで、給与所得控除の最低保障額が適用され、基礎控除の特例の対象となるケースでは、
給与所得控除 74万円 + 基礎控除 104万円 = 178万円
となります。
このため、一定の給与所得者について、所得税の負担が始まる給与収入の目安が178万円となります。
ただし、この178万円はあくまで所得税に関する負担開始水準です。
住民税の非課税基準や社会保険の加入要件、配偶者控除・扶養控除等の判定基準まで、すべて178万円になるわけではありません。
「年収178万円までなら、税金も社会保険も扶養も何も気にしなくてよい」と誤解しないよう注意が必要です。
6.給与所得控除が増えると何が変わる?
給与所得控除が増えると、同じ給与収入でも給与所得の金額が小さくなる場合があります。
例えば、給与所得控除の最低保障額が適用される人について考えてみましょう。
給与収入が170万円の場合、令和8年分の最低保障額74万円を使うと、
給与収入170万円 - 給与所得控除74万円 = 給与所得96万円
となります。
さらに、その人が基礎控除104万円の対象で、ほかに所得がないなど一定の条件に該当する場合、給与所得96万円から基礎控除104万円を差し引くと課税所得は生じない計算になります。
このように、給与所得控除と基礎控除の両方を合わせて見ることで、今回の改正の影響が理解しやすくなります。
7.基礎控除額は「年収」ではなく「合計所得金額」で判定します
年末調整で特に注意したいのが、基礎控除額の判定です。
基礎控除の判定で使用するのは、単純な「給与の年収」ではなく、原則として本人の合計所得金額です。
給与所得だけの人であれば比較的分かりやすいのですが、副業、不動産所得、事業所得など給与以外の所得がある場合には、それらも含めて考える必要があります。
会社側は、従業員から提出される基礎控除申告書等の内容に基づいて年末調整を行います。
従業員本人も、給与収入だけを見て適当に所得見積額を記載するのではなく、給与以外の所得がある場合には注意しましょう。
8.令和8年11月までの毎月の給与計算は変更しません
令和8年度税制改正による基礎控除の引上げや給与所得控除の見直しは、原則として令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます。
ここで会社の給与担当者が注意したいのが、令和8年1月から11月までの源泉徴収事務には、今回の令和8年度改正による変更が生じないという点です。
令和8年12月に行う年末調整で、改正後の基礎控除や給与所得控除を反映し、1年間の所得税額を精算します。
そして、令和9年1月1日以後に支払う給与等については、令和8年度税制改正を反映した新しい源泉徴収税額表等を使用します。
したがって、会社側では、
- 令和8年11月まで……従来どおりの源泉徴収事務
- 令和8年12月……年末調整で改正内容を反映
- 令和9年1月以後……改正後の源泉徴収税額表等へ切替え
という流れを押さえておくことが重要です。
9.令和7年改正と令和8年改正が重なっている点にも注意
今回の年末調整を分かりにくくしている理由の一つが、令和7年度税制改正と令和8年度税制改正が続けて行われていることです。
例えば給与所得控除の最低保障額は、令和7年度税制改正で55万円から65万円へ引き上げられました。
さらに令和8年度税制改正では、本則部分を65万円から69万円へ引き上げたうえで、令和8年・令和9年分について5万円を上乗せする特例が設けられています。
その結果、令和8年分について一定の給与所得者に適用される最低保障額は74万円となります。
基礎控除についても複数年度の改正が関係するため、古い資料や前年の年末調整資料をそのまま使用しないことが大切です。
10.経理・総務担当者が確認しておきたい実務ポイント
令和8年分の年末調整に向けて、会社の経理・総務担当者は次の点を確認しておきましょう。
- 給与計算・年末調整ソフトが令和8年度税制改正に対応しているか
- 改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」が反映されているか
- 基礎控除申告書等が令和8年分の様式になっているか
- 従業員本人の合計所得金額の見積りが適切か
- 給与以外の所得がある従業員への案内が必要か
- 令和9年1月から使用する源泉徴収税額表等への切替え準備ができているか
特に年末調整ソフトを利用している会社では、計算そのものはシステムが行ってくれることが多いでしょう。
しかし、従業員が入力した所得見積額や扶養情報が間違っていれば、システムを使っていても正しい結果にはなりません。
制度改正の内容を最低限理解したうえで、入力内容を確認することが大切です。
11.「178万円」だけで従業員へ説明しない
パートやアルバイトの従業員から、
「今年はいくらまで働いて大丈夫ですか?」
「178万円までなら扶養から外れませんか?」
と質問されることも考えられます。
このとき、「178万円まで大丈夫です」と単純に回答するのはおすすめできません。
178万円は所得税の負担開始水準に関する数字であり、配偶者控除・扶養控除等の所得要件、住民税、社会保険などは別に確認する必要があります。
従業員から年収ラインについて相談された場合には、「所得税の話なのか」「税法上の扶養の話なのか」「社会保険の扶養の話なのか」を切り分けることが重要です。
配偶者や扶養親族に関する具体的な年収ラインについては、第4話で詳しく整理します。
12.税理士からのワンポイントアドバイス
令和8年分の年末調整で最も注意したいのは、「ニュースで見た数字」と「実際の年末調整の計算」を混同しないことです。
「基礎控除62万円」「給与所得控除69万円」という本則の数字だけを見ると、令和8年・令和9年に適用される特例を見落とす可能性があります。
一方で、「178万円」という数字だけを見ると、住民税や社会保険、扶養判定まで同じ基準だと誤解してしまう可能性があります。
年末調整実務では、国税庁が公表する令和8年分の様式・計算表と、利用している給与計算ソフトの改正対応状況を確認しながら処理することが大切です。
13.まとめ|給与所得控除と基礎控除をセットで理解しましょう
令和8年分の年末調整で押さえておきたいポイントを整理すると、次のとおりです。
- 給与所得控除の最低保障額の本則は65万円から69万円へ引き上げ
- 令和8年・令和9年はさらに5万円の特例があり、一定の場合は74万円
- 基礎控除の本則は、合計所得金額2,350万円以下の場合62万円
- 令和8年・令和9年は基礎控除の特例があり、合計所得金額489万円以下の場合は104万円
- 一定の給与所得者では「74万円+104万円=178万円」が所得税の負担開始水準の目安になる
- 令和8年11月までの源泉徴収事務は今回の改正による変更なし。令和8年12月の年末調整から反映
令和8年分は、前年から数字が変わっているだけでなく、複数年度の改正と時限的な特例が重なっています。
前年の資料をそのまま使わず、令和8年分の最新資料を確認しながら年末調整を進めましょう。
次回の第4話では、従業員から質問されることの多い「配偶者控除・扶養控除はいくらまで?令和8年の年収ライン」について詳しく解説します。
令和8年(2026年)年末調整を税理士がわかりやすく解説
- 第1話|令和8年の年末調整は何が変わる?税制改正のポイントを解説
- 第2話|そもそも年末調整とは?会社員の所得税が精算される仕組み
- 第3話|令和8年分の給与所得控除・基礎控除はどう変わる?
- 第4話|配偶者控除・扶養控除はいくらまで?令和8年の「年収ライン」を整理
- 第5話|年末調整で会社へ提出する書類は?令和8年分の必要書類と注意点
- 第6話|「年収の壁」はどう変わった?178万円・社会保険106万円などを整理
参考情報
※本記事は令和8年8月時点で公表されている国税庁・財務省の情報を基に、令和8年分の年末調整に関係する給与所得控除・基礎控除の一般的な内容を分かりやすく解説したものです。個別の所得状況等によって取扱いが異なる場合がありますので、具体的な税務判断については税理士等の専門家へご確認ください。







