〜死亡保険金・生前贈与・相続放棄で見落としやすい相続税の注意点〜
「遺産分割で預金や不動産を受け取っていないのだから、相続税は関係ない」と思っていませんか。
相続税は、民法上の相続財産を取得した人だけにかかるとは限りません。死亡保険金、死亡退職金、生前贈与、相続時精算課税による贈与財産など、税法上、相続または遺贈によって取得したものとみなされる財産があります。
そのため、遺産分割で何も取得していない人や、相続を放棄した人であっても、受け取った財産の内容によっては相続税の申告・納税が必要になることがあります。
この記事では、どのような場合に相続税がかかるのか、特に生命保険金を受け取った場合の注意点を税理士事務所の視点から解説します。
※本記事は令和8年7月時点の法令・公表情報をもとに作成しています。実際の課税関係は、保険料負担者、受取人、相続人関係、相続放棄の有無、生前贈与の時期などによって異なります。
1.相続税を払う人は「相続人」だけではありません
相続税は、被相続人から相続または遺贈によって財産を取得した人に課税されます。ここでいう「財産を取得した人」には、必ずしも法定相続人だけが含まれるわけではありません。
遺言によって財産を受け取った相続人以外の人や、税法上「相続または遺贈により取得したもの」とみなされる財産を受け取った人も、相続税の対象になることがあります。
反対に、法定相続人であっても、本来の相続財産もみなし相続財産も取得せず、相続税の計算に加算される生前贈与財産等もなければ、その人に相続税の納税額は生じません。
つまり、相続税がかかるかどうかは「相続人かどうか」だけではなく、実際にどのような財産を取得したかで判断します。
2.遺産以外でも相続税の対象になる主な財産
民法上の遺産分割の対象ではなくても、相続税の対象となる財産があります。代表的なものは次のとおりです。
- 被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金
- 被相続人の死亡後に支給が確定した死亡退職金
- 相続税の課税価格に加算される一定期間内の生前贈与財産
- 相続時精算課税制度により贈与を受けた財産
- 被相続人が保険料を負担していた生命保険契約に関する権利
- 特別寄与者が受け取る特別寄与料
これらは、預金や不動産などの本来の相続財産とは別に、相続税の計算へ含める必要があります。
「遺産分割協議書に名前がない」「不動産や預金は何も取得していない」という理由だけで、相続税がかからないとは判断できません。
3.死亡保険金は「受取人固有の財産」でも相続税の対象です
死亡保険金は、通常、保険契約で指定された受取人が取得します。そのため、原則として遺産分割協議の対象となる本来の相続財産ではなく、受取人固有の財産とされています。
しかし、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約から支払われる死亡保険金は、相続税法上、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
したがって、預金や不動産を一切相続していない人でも、死亡保険金を受け取っていれば、相続税がかかる可能性があります。
なお、誰が保険料を負担していたかによって課税される税金は異なります。被相続人以外の人が保険料を負担していた場合には、所得税や贈与税の対象となることもあるため注意が必要です。
4.生命保険金の非課税限度額
相続人が受け取った死亡保険金には、一定の非課税枠があります。
500万円 × 法定相続人の数 = 死亡保険金の非課税限度額
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、非課税限度額は1,500万円です。
相続人全員が受け取った死亡保険金の合計額が1,500万円以下であれば、原則として死亡保険金について相続税はかかりません。1,500万円を超える場合には、超えた部分を各相続人の受取額に応じて按分し、相続税の課税価格へ算入します。
ただし、この非課税枠を利用できるのは、死亡保険金を受け取った人が相続人である場合です。相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、この非課税枠はありません。
5.相続放棄をした人が生命保険金を受け取る場合
相続放棄をしても、死亡保険金の受取人として指定されている場合は、原則として保険金を受け取ることができます。死亡保険金は本来の相続財産ではなく、受取人固有の財産だからです。
ただし、相続税の取扱いには注意が必要です。相続放棄をした人は、死亡保険金の非課税枠の適用上、「相続人」には含まれません。
そのため、相続放棄をした人が死亡保険金を受け取った場合、その人が受け取った保険金には非課税枠を使えず、原則として全額が相続税の課税価格に算入されます。
なお、非課税限度額を計算する際の「法定相続人の数」については、相続放棄がなかったものとして人数を数えます。この点は混同しやすいため、注意しましょう。
6.相続人以外の孫などが保険金を受け取る場合
孫や内縁の配偶者など、法定相続人ではない人が死亡保険金を受け取る場合もあります。この場合、その死亡保険金は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象となります。
相続人以外の人が取得した死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は適用されません。
また、被相続人の配偶者および一親等の血族以外の人が財産を取得した場合には、原則としてその人の相続税額が2割加算されます。
たとえば、子が存命であるにもかかわらず孫が死亡保険金を受け取る場合、孫は通常、法定相続人ではなく、非課税枠を使えないうえに、相続税額の2割加算の対象となる可能性があります。
孫を保険金受取人にする場合は、税負担だけでなく、保険金を誰の生活費や納税資金に使うのかも含めて検討する必要があります。
7.遺産を取得していなくても生前贈与で相続税がかかる場合
相続時に遺産を取得していなくても、生前に被相続人から贈与を受けていたために相続税がかかることがあります。
代表的なのが、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けていた場合です。相続時精算課税の対象となる贈与財産は、原則として贈与者が亡くなったときの相続税の計算へ加算します。
また、暦年課税による生前贈与についても、相続または遺贈により財産を取得した人は、相続開始前の一定期間内(税制改正により、順次「3年前」から「7年前」へ延長中)に受けた贈与財産を、相続税の課税価格へ加算する必要があります。
「相続時には何ももらっていないから申告不要」と考えるのではなく、過去の贈与税申告書、贈与契約書、預金の入出金なども確認しましょう。
8.生命保険金だけ受け取った場合も相続税申告が必要?
死亡保険金だけを受け取った場合でも、被相続人の課税遺産総額や、本人が受け取った保険金の課税対象額によっては、相続税申告が必要です。
相続税は、被相続人の財産全体から基礎控除額を差し引いて計算します。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 相続税の基礎控除額
相続税の課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合には、相続税申告が必要になる可能性があります。
保険金を受け取った人だけでは、被相続人の財産全体を把握できないことがあります。代表相続人や申告を担当する税理士へ、保険金の支払通知書や保険証券を必ず共有しましょう。
9.相続放棄を考える場合の注意点
借金が多い相続では、相続放棄を検討することがあります。しかし、生命保険金を受け取るだけで相続放棄ができなくなるわけではありません。受取人固有の財産である保険金の受領は、通常、相続財産の処分とは異なるためです。
一方で、被相続人名義の預金を引き出して自分のために使う、不動産や車を売却するなど、相続財産を処分すると、単純承認とみなされて相続放棄が難しくなる可能性があります。
また、相続放棄をしても死亡保険金を受け取れば、相続税の申告・納税が必要になる場合があります。「相続放棄をすれば税金もすべて関係なくなる」とは限りません。
相続放棄を検討している場合は、財産を動かす前に弁護士や司法書士へ相談し、生命保険金の税務については税理士へ確認することをおすすめします。
10.生命保険を使った相続対策で注意すべきこと
生命保険は、相続税の非課税枠、納税資金の確保、遺産を取得しにくい相続人への資金準備などに活用できます。
しかし、受取人の指定を誤ると、非課税枠を使えなかったり、相続税額の2割加算を受けたりする可能性があります。
相続対策として生命保険を活用するときは、次の点を確認しましょう。
- 誰が保険料を負担しているか
- 被保険者は誰か
- 死亡保険金の受取人は誰か
- 受取人は法定相続人か
- 相続放棄を予定している人ではないか
- 相続税額の2割加算の対象にならないか
- 遺産分割後の納税資金として適切に使えるか
生命保険金は遺言書がなくても契約上の受取人に支払われます。そのため、財産全体の分け方と保険金受取人の指定が合っているか、定期的に見直すことが大切です。
11.税理士事務所ができるサポート
当事務所では、相続財産を取得していない方や、死亡保険金のみを受け取った方についても、相続税申告の必要性を確認しています。
- 死亡保険金・死亡退職金の課税関係の確認
- 生命保険金の非課税限度額の計算
- 相続放棄をした人が受け取った保険金の税務確認
- 相続人以外の受取人に対する2割加算の確認
- 相続時精算課税・生前贈与加算の確認
- 相続税申告が必要かどうかの初期判定
- 生命保険を活用した納税資金対策の検討
- 弁護士・司法書士・保険代理店等との連携
「遺産はもらっていないが保険金を受け取った」「相続放棄したので相続税は関係ないと思っている」「孫を保険金受取人にしている」という場合は、申告期限前に一度ご相談ください。
12.まとめ|「何も相続していない」だけでは判断できません
相続税がかかるかどうかは、遺産分割で預金や不動産を取得したかだけでは判断できません。
死亡保険金、死亡退職金、相続時精算課税による贈与財産、一定期間内の生前贈与などを取得している場合は、相続税の申告・納税が必要になることがあります。
特に、相続放棄をした人や相続人以外の人が死亡保険金を受け取る場合は、生命保険金の非課税枠を使えないことがあります。また、受取人によっては相続税額の2割加算が生じます。
「遺産を取得していないから大丈夫」と自己判断せず、保険金、生前贈与、相続人関係を含めて税理士へ確認しましょう。
生命保険金・相続放棄と相続税でお困りの方へ
澤田匡央税理士事務所では、死亡保険金を受け取った方、相続放棄を検討している方、遺産を取得していない方についても、相続税申告の必要性を確認しています。
「保険金だけ受け取ったが申告が必要か分からない」「相続放棄をしたが相続税の通知が心配」「孫を受取人にしている生命保険を見直したい」という方は、お気軽にご相談ください。







