〜不動産編:小規模宅地等の特例・貸家の評価・令和8年度税制改正の注意点〜
相続税対策は、早めに始めるほど選択肢が広がります。
しかし、相続が近い段階であっても、不動産の利用状況や相続税評価を確認することで、
まだ検討できる対策があります。
特に、不動産は相続財産の中でも金額が大きくなりやすく、
評価方法や特例の適用可否によって相続税額が大きく変わることがあります。
自宅、貸家、アパート、同族会社に貸している土地、広い宅地などがある場合は、
早めに確認しておくことが大切です。
この記事では、相続間近でも検討できる不動産に関する相続税対策について、
税理士事務所の視点から分かりやすく解説します。
※本記事は、令和8年6月時点の公表情報等をもとに作成しています。
不動産評価や小規模宅地等の特例は、事実関係により結論が大きく変わります。
実際の相続税申告・相続対策では、必ず税理士へご相談ください。
1.不動産は相続税額に大きく影響します
相続税では、預貯金は原則として残高で評価しますが、不動産は財産評価基本通達に基づいて評価します。
土地は路線価方式や倍率方式、建物は固定資産税評価額をもとに評価するのが基本です。
さらに、土地や建物を自分で使っているのか、貸しているのか、
同族会社に貸しているのか、事業用なのか、居住用なのかによって、
相続税評価額や特例の適用可否が変わります。
そのため、相続が近い段階では、次のような点を確認することが重要です。
- 自宅土地に小規模宅地等の特例を使えるか
- 賃貸アパートや貸家の敷地が貸付事業用宅地等に該当するか
- 同族会社に貸している土地が特定同族会社事業用宅地等に該当するか
- 古くなった貸家の修繕やリフォームが必要か
- 地積規模の大きな宅地に該当する可能性があるか
- 令和8年度税制改正による貸付用不動産の評価見直しの影響を受けるか
「不動産を持っている」というだけでは、相続税対策になるとは限りません。
どの不動産が、どの制度の対象になるのかを一つずつ確認する必要があります。
2.小規模宅地等の特例を使えるか確認する
相続税対策でまず確認したいのが、小規模宅地等の特例です。
この特例は、一定の要件を満たす宅地等について、相続税評価額を大きく減額できる制度です。
代表的な区分には、次のようなものがあります。
- 特定居住用宅地等:自宅の敷地など
- 特定事業用宅地等:個人事業に使っている土地など
- 特定同族会社事業用宅地等:同族会社の事業用に貸している土地など
- 貸付事業用宅地等:賃貸アパート・貸家などの敷地
たとえば、貸付事業用宅地等に該当する場合、一定の要件を満たせば、
200㎡まで50%の評価減を受けられる可能性があります。
また、特定同族会社事業用宅地等に該当する場合には、
400㎡まで80%の評価減を受けられる可能性があります。
ただし、これらの特例は自動的に適用されるものではありません。
相続人が申告期限までその土地を保有していること、事業や貸付を継続していること、
遺産分割が確定していることなど、細かな要件を満たす必要があります。
3.同族会社に貸している土地・建物は要件確認が重要です
被相続人やその親族が経営する同族会社に、土地や建物を貸しているケースでは、
特定同族会社事業用宅地等として小規模宅地等の特例を使える可能性があります。
特定同族会社とは、相続開始直前において、被相続人とその親族などが
発行済株式総数または出資総額の50%超を有している法人などをいいます。
また、申告期限までに一定の要件を満たす親族がその宅地等を取得し、
会社の事業の用に供されていることなどが必要です。
ここで注意したいのが、土地・建物の賃貸関係です。
同族会社に無償で貸している場合、有償で貸している場合、建物所有者が誰か、
地代・家賃をどのように設定しているかによって、特例の適用可否が変わることがあります。
相続間近になってから慌てて契約関係を見直そうとしても、
すぐに要件を満たせるとは限りません。
同族会社がある場合は、土地・建物の所有者、賃貸借契約、地代・家賃の支払状況を早めに整理しましょう。
4.貸付事業用宅地等は「3年以内貸付」に注意
賃貸アパートや貸家、貸駐車場などの敷地については、
貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を検討できる場合があります。
ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、
原則として貸付事業用宅地等から除かれる点に注意が必要です。
これは、相続直前に駆け込みで貸付を始めて特例を受けるような対策を制限する趣旨です。
例外として、相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を継続していた場合などには、
3年以内貸付宅地等に該当しないケースがあります。
実務上は、貸付開始時期、賃貸借契約書、入金状況、事業規模などを確認する必要があります。
「貸しているから特例が使える」と単純に判断するのは危険です。
相続税申告では、いつから、誰に、どのような条件で貸していたかを確認しましょう。
5.古くなった貸家のリフォーム・修繕を検討する
老朽化した貸家や賃貸アパートでは、入居者が退去したまま空室になっている、
修繕不足により賃料が下がっている、建物の管理状態が悪いといった問題が生じることがあります。
相続税評価では、貸家や貸家建付地の評価において、賃貸割合が重要になります。
空室が多い場合や、実際に貸付の継続性が乏しい場合は、
評価上不利になることがあります。
そのため、相続間近であっても、貸家の修繕やリフォームを行い、
入居者を確保し、賃貸経営を継続できる状態に整えることは重要です。
ただし、修繕費に該当するのか、資本的支出に該当するのかによって、
所得税・法人税の取扱いが変わります。
相続税評価だけでなく、所得税・法人税への影響も含めて検討しましょう。
6.地積規模の大きな宅地に該当するか確認する
広い土地を所有している場合には、地積規模の大きな宅地として評価減を受けられる可能性があります。
地積規模の大きな宅地とは、一定の面積以上の宅地について、
開発時の道路や公共公益的施設用地の負担などを考慮し、
通常の宅地より評価額を下げることができる評価方法です。
三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上が一つの目安になります。
ただし、面積要件を満たしていても、用途地域、容積率、所在地域、土地の形状などにより、
適用できない場合があります。
1つの敷地に複数のアパートや貸家が建っている場合、
その敷地全体を1つの評価単位として評価できるかどうかも重要です。
評価単位を誤ると、地積規模の大きな宅地に該当するかどうかの判断が変わる可能性があります。
7.令和8年度税制改正による「貸付用不動産の評価見直し」に注意
令和8年度税制改正では、相続開始前または贈与前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産について、
評価方法の見直しが予定されています。
これまで、貸付用不動産は、土地は路線価等、建物は固定資産税評価額などを基に評価されるため、
実際の売買価格より相続税評価額が低くなるケースがありました。
この評価差を利用した相続税対策が行われてきましたが、
今後は、相続・贈与前5年以内に取得した一定の貸付用不動産について、
通常の取引価額に近い評価方法となる可能性があります。
公表されている情報では、課税上の弊害がない限り、
取得価額を基に地価変動等を考慮した価額の80%相当額で評価できる方向が示されています。
適用は、令和9年1月1日以後の相続・贈与により取得する財産からとされています。
つまり、相続直前に賃貸不動産を購入して評価差を使う対策は、
今後、効果が大きく縮小する可能性があります。
貸付用不動産を使った相続対策を検討している方は、
取得時期、物件の用途、相続・贈与の時期を慎重に確認する必要があります。
8.不動産小口化商品にも注意が必要です
近年、不動産小口化商品を活用した相続税対策も注目されてきました。
少額から不動産に投資でき、相続税評価が下がる可能性があるとして検討されることがあります。
しかし、令和8年度税制改正では、不動産小口化商品についても評価方法の見直しが示されています。
通常の取引価額、処分価格、買取価格、売買実例、定期報告書などを参酌して評価する方向とされています。
「不動産小口化商品を買えば相続税が下がる」と単純に判断するのは危険です。
商品の内容、換金性、収益性、手数料、相続税評価、相続人間の分けやすさなどを総合的に確認しましょう。
9.相続間近の不動産対策でよくある誤解
相続間近の不動産対策では、次のような誤解がよくあります。
- 不動産を買えば必ず相続税が下がる
- 貸家にすれば必ず小規模宅地等の特例が使える
- 同族会社に貸していれば必ず80%減額できる
- 古い貸家は何もしなくても評価が下がる
- 広い土地なら必ず地積規模の大きな宅地に該当する
- 小規模宅地等の特例を使えば申告しなくてもよい
※小規模宅地等の特例は、原則として期限内に相続税申告書を税務署へ提出することが適用の重要な条件です。
特例を使った結果、相続税額が0円になる場合でも、申告手続き自体は省略できません。
「税金が出ないから申告不要」と自己判断しないよう注意しましょう。
実際には、相続税評価や特例の適用は、土地の利用状況、契約関係、取得者、保有継続、
事業継続、遺産分割、申告期限など、細かな要件を満たす必要があります。
相続間近で対策を行う場合は、短期間でできることと、すでに間に合わないことを見極めることが大切です。
10.税理士事務所ができるサポート
当事務所では、不動産を所有する方の相続税対策・相続税申告について、
財産評価と特例適用の観点からサポートしています。
- 小規模宅地等の特例の適用可否確認
- 特定同族会社事業用宅地等の要件確認
- 貸付事業用宅地等の要件確認
- 地積規模の大きな宅地の適用可能性の確認
- 貸家・貸家建付地の相続税評価
- 令和8年度税制改正による貸付用不動産評価見直しの影響確認
- 不動産小口化商品の相続税評価の確認
- 相続税試算・納税資金の確認
- 司法書士・不動産会社等との連携
不動産の相続税評価は、資料を見ただけでは判断できないことも多くあります。
現地の状況、利用実態、契約関係、登記内容、固定資産税通知書などを確認しながら、
適正な評価を行うことが重要です。
11.まとめ|相続間近でも、不動産評価の確認でできることがあります
相続が近い段階であっても、不動産については確認すべきポイントが多くあります。
小規模宅地等の特例、同族会社への貸付、貸家の評価、地積規模の大きな宅地、
貸付用不動産の評価見直しなど、制度を正しく理解することで、
相続税額や納税資金の見通しが大きく変わることがあります。
一方で、相続間近に無理な不動産購入や形式的な貸付を行っても、
期待した相続税対策にならない可能性があります。
特に令和8年度税制改正により、相続・贈与前5年以内に取得した一定の貸付用不動産については、
従来より評価額が高くなる可能性があるため注意が必要です。
不動産を使った相続税対策は、金額が大きい分、判断を誤ると影響も大きくなります。
相続税が心配な方、不動産を複数所有している方、同族会社に土地を貸している方は、
早めに税理士へ相談しましょう。
不動産をお持ちの方の相続税対策・相続税申告はこちら
澤田匡央税理士事務所では、不動産を所有する方の相続税申告、相続税試算、
小規模宅地等の特例、不動産評価、相続対策のご相談をお受けしています。
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