創業支援連載|第8回
「売上は少しずつ増えているのに、なぜかお金が残らない」。
これは、創業したばかりの方から本当によく聞く悩みです。
今回は少し趣向を変えて、起業体験談風に、
創業1年目にありがちな「お金の使い方の失敗」と、
そこからどう立て直していくかを、税理士事務所の視点でわかりやすくまとめました。
これから創業する方にも、すでに開業している方にも、
「自分のことかもしれない」と感じていただける内容になれば幸いです。
創業して3か月。「思ったより順調」のはずだった
Aさんは、長年勤めた会社を辞めて独立しました。
開業前は不安もありましたが、幸いにも前職時代のつながりから仕事の依頼が入り、
創業後3か月ほどで「思ったより順調かもしれない」と感じるようになりました。
売上もゼロではなく、毎月少しずつ入ってきます。
新しい名刺を作り、ホームページも整え、仕事用のパソコンも買い替えました。
「せっかく独立したのだから、見た目も大事」と考え、机や椅子も少し良いものにしました。
ところが、半年が過ぎたころ、あることに気づきます。
気づいたこと
- 売上は出ている
- 仕事も入っている
- でも、通帳残高がほとんど増えていない
「利益が出ること」と「お金が残ること」は違った
ここで多くの創業者がぶつかるのが、
利益と資金繰りは同じではない
という現実です。
たとえば、売上が上がっていても、入金が翌月や翌々月なら、
その時点ではまだ現金は手元にありません。
一方で、家賃、通信費、広告費、外注費、消耗品費などは先に出ていきます。
Aさんも、売上の数字ばかりを見て、
「仕事があるから大丈夫」と考えていました。
しかし実際には、
お金が入るタイミングより、お金が出るタイミングの方が早かったのです。
創業1年目でありがちな「3つの使いすぎ」
1.開業直後の設備投資を頑張りすぎる
独立すると、仕事環境を整えたくなります。
パソコン、モニター、机、チェア、スマートフォン、事務所内装、名刺、ホームページ。
どれも必要なものに見えます。
もちろん必要な投資もありますが、
「今すぐ必要なもの」と「後でもよいもの」を分けて考えないと、
開業直後に現金が一気に減ってしまいます。
高価な備品は、支払った年に全額が経費にならないルール(減価償却)もあり、思ったほど節税にならないこともあります
2.広告費をかけたのに効果検証をしていない
集客のために広告を出したり、外部サービスを契約したりすることはあります。
ただ、創業初期ほど大切なのは、
いくら使ったかよりも
それで何件問い合わせがあったか
を見ることです。
「不安だからとりあえず出稿する」状態が続くと、
固定費のように毎月お金が出ていくだけになってしまいます。
3.生活費と事業資金を分けていない
個人事業では特に多いのですが、
事業用口座から生活費を出したり、
個人カードで事業経費を払ったりしていると、
何にいくら使っているのかが分かりにくくなります。
Aさんも、最初は「自分のお金だからいいか」と思っていましたが、
後から帳簿を見返したときに、
どれが事業の支出で、どれが生活費か分からなくなってしまいました。
一番つらかったのは「税金のことを後回しにしていた」こと
創業1年目は、とにかく売上を作ることに必死になります。
そのため、税金の支払いは「また今度考えよう」と後回しになりがちです。
しかし、利益が出れば、後から所得税や住民税、場合によっては消費税のことも考える必要があります。
法人なら法人税や源泉所得税の対応も出てきます。
Aさんも、売上が増えて少し安心したころに、
「このままだと納税資金を残していない」ということに気づき、
一気に不安になりました。
創業初年度に起こりやすいこと
- 売上は使ってよいお金だと思ってしまう
- 税金や社会保険の支払時期を意識していない
- 申告時期が近づいてから慌てる
立て直しのきっかけは、「毎月1回、数字を見る日」を作ったこと
Aさんが流れを変えられたきっかけは、
難しい経営分析を始めたことではありませんでした。
まずやったのは、毎月1回、
数字を見る日を決めたこと
でした。
確認する項目はシンプルです。
毎月確認した数字
- 今月の売上
- 今月の経費
- 月末の預金残高
- まだ入金されていない売掛金
- 来月以降に確実に出ていく支払い
たったこれだけでも、
「売上はあるけれど来月は資金が厳しい」
「この広告は費用に見合っていない」
「今月は設備投資を控えた方がよい」
といった判断がしやすくなりました。
創業直後に本当に必要だったのは、「かっこいい経営」ではなく「地味な管理」だった
創業すると、どうしても前向きな投資や見栄えに意識が向きます。
ホームページ、ロゴ、事務所、名刺、広告。
どれも大事です。
ただ、事業を続けるうえで最も重要なのは、
毎月のお金の流れを把握し、
無理をしていないかを確認することです。
Aさんも後から振り返って、
「もっと早く、税金と資金繰りを含めて相談していればよかった」
と話していました。
これから創業する方に伝えたいこと
起業そのものは、勢いも大切です。
でも、続けるためには冷静なお金の管理が必要です。
創業1年目は、売上を伸ばすことだけでなく、
お金を減らしすぎないこと
も同じくらい重要です。
- 設備投資は優先順位をつける
- 広告費は反応を見ながら使う
- 生活費と事業資金を分ける
- 毎月1回は数字を見る
- 税金の支払いを見越して資金を残す
この基本だけでも、創業後の安心感は大きく変わります。
まとめ|起業体験談として一番多い失敗は「売上だけ見て安心してしまうこと」
創業後の失敗は、仕事がないことだけではありません。
むしろ、
仕事があるのに、お金の流れを見ていないこと
の方が危険な場合があります。
売上、経費、入金、支払い、税金。
これらを毎月確認する習慣があるだけで、
事業はかなり安定しやすくなります。
「もっと売上を増やす」前に、
「今のお金の流れを把握する」。
これが、創業1年目を乗り切る大切なポイントです。
創業後のお金の管理に不安がある方は当事務所へ
創業後の資金繰り、税金の見込み、経理体制づくり、月次の数字確認など、
当事務所では創業期に起こりやすいお金の悩みをサポートしています。
「売上はあるのに不安がある」という方も、お気軽にご相談ください。
参考情報
- 中小企業庁「創業支援関連情報」
- 日本政策金融公庫「創業の手引き」
- 国税庁「個人事業の記帳・帳簿等保存」
- 国税庁「青色申告の手続き」








